第91話 悪魔の城

 セイレーンさんたちと別れた僕たちは一路、南の湾岸地区にあるという皎血城を目指した。


 Qの話では十二使徒の一人であるロジャー・ベーコンなる人物がその城の主が三つ目のアルカナを持っているという。


 十二使徒というこの世界をゾンビだらけにした張本人たちのグループの人間の言うことをどこまで信用できるか分からないが、手がかりがない以上、僕たちの行動は一つだけだ。


 難波零子さんが先導し、ハーレーダビッドソンを走らせていた。

 時々ゾンビたちに遭遇したが、もうそんなのは僕たちの敵ではなかった。

 零子さんのバンドラインスペシャルと僕の弓張り月の能力ですべて粉砕した。

 もちろん彼らからクリスタルの回収は忘れない。

 どうやら零子さんの持つグレムリンというイースターエッグも僕の七つのギフトと同じようにクリスタルを原料として色々な能力に変えることができるようだ。

 そのクリスタル、それから錬成される賢者の石は人間の精神エネルギーを結晶化させたものだと零子さんは言った。

「まあ、あの奇妙な生き物の受け売りだけどね」

 と美しい顔に笑みを浮かべて零子さんは言った。

 強制的に生物を進化させるのに必要だとロジャー・ベーコンは言っていたという。

 一体全体、十二使徒はこんなゾンビだらけの世界にしいてどうしようというのだろうか。

 僕があれこれ考えているとQがスバル360のブレーキを踏んだ。


「たぶん着いたと思う」

 ごくりと生唾を飲み込み、Qは言った。


 目の前のある場所を指差した。

 その指がさすものはあまりにも禍々しく、根元的な恐怖を感じさせるのに十分であった。


 零子さんがバイクを降り、僕たちのほうに駆け寄った。

 ヘルメットをとり金色の頭をふる。

 その姿がいちいち絵になる人であった。

「どうやらここが皎血城のようね」

 スバル360の窓越しに零子さんは言った。

「そのようですね」

 僕たちはスバル360を降りた。


 僕たちの眼前にそびえるのはまさに城であった。

 西洋の城だ。

 城のあちこちに石でできたガーゴイルや山羊の顔をした悪魔が配置され、それぞれの窓には鉄格子がはめこまれていた。

 巨大であり、とてつもなく禍々しい空気をまとっていた。

 西洋の城といったがシンデレラ姫がすむようなメルヘンさは地獄の釜にでも捨ててしまったのだろう。

 凶悪であり悪夢を具現化したものがこの城といえた。


「これはまさに悪魔城ね」

 零子さんは金髪を風になびかせ、言った。

 彼女の言葉はその城の特性をあらわすのにまさに的確であった。

 そして僕たちはこの城を守るべき城門の前にいた。


 この皎血城は元々僕たちが住む街の主産業である工業地帯に建てられていた。

 この辺りは小学生のときに社会見学で何度か訪れたことがあるが、現在はその面影はまるでなかった。

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