第86話 夏祭りの夢

 気がつくとそこは八雲神社へと続く街道であった。

 その日は夏祭りで露店が道の両脇に並んでいた。

 わたあめ、たこ焼き、フランクフルト、りんご飴、金魚すくい、くじ引きなどの露店がところせましと並んでいた。

 浴衣を着た陽美がくじ引きをやりたいと言うので露店の店主にお金を渡した。

 ああ、これは小学生六年の時の記憶だ。

 浴衣姿の陽美はとびっきりのかわいさだ。


 あたったのはビー玉だった。

 そこにはカラフルなビー玉たちが袋のなかでひしめき合っていた。

 露店の電気が反射してキラキラと輝いていて宝石のようだった。

 数こそ多いが、大当たりではないので僕は少しがっかりした。

 陽美にはもっといいものをプレゼントしたかったのに。

 陽美はキラキラと光るビー玉を見つめながら、とても嬉しそうだった。

 陽美がうれしそうにしているのでなんだか僕も嬉しかった。

 陽美が喜んでくれたのでこれはこれで一等賞だ。

 むろん、そんなキザったらしい台詞は口にはできなかった。

「これ、全部あげるよ」

 僕は言った。

「ほんと!!うれしい!!」

 そう言うと陽美はぎゅっと僕の手を握った。

 突然手を握られて僕は耳の先まで真っ赤になるのを覚えた。

 頭に血がのぼり、くらくらするのを覚えた。

 女の子の手はなんて柔らかくて気持ちいいんだ。

 発達しかかっていた僕はその時、確実に反応していた。

 その様子を見て、陽美はその可愛らしい顔にどこか悪魔めいた笑みを浮かべていた。

「月彦にもらったビー玉、大事にするね」

 そう耳元でささやいた。

 熱い吐息が耳にかかり、心地よかった。

 彼女の体温を感じ取れた。


 そう、陽美の部屋にあったのはあの夏祭りで買ったものだ。

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