第85話 残敵掃討

 巨人はその形を保てなくなっとはいえ、まだざっと見ただけでも二十体以上のゾンビが残っていた。

 バラバラになったやつらはうごめきながら、どうにかして立ち上がろうとしていた。


 私たちは残る敵を掃討するためにその集団に突撃を開始した。

 ただのゾンビになってしまったら、やつらはそれほど恐ろしい相手ではない。

 ほんの少し前までゾンビなんて怖くて仕方がなかったが、あいつにもらった力のおかげでそれほど怖くはなかった。

 今ではゾンビなんて雑魚モンスターだ。


 私はゾンビ一体の頭めがけて金属バッドをフルスイングした。

 もとソフトボール部の実力を思いしれ。

 べこっと鈍い音がして、ゾンビの頭を粉々に砕いた。

 倒した相手から、例のクリスタルを忘れずに回収する。


 金属バッドもかなりへこんできたな。

 けっこうな数のゾンビをこれで始末してきたから、仕方ないか。


 私が何かのゲームのようにゾンビの頭を粉砕していくのを横目で見ながら零子さんはバンドラインスペシャルをリロードし、引き金を引いていく。

 銃弾は的確にゾンビの頭を貫通していく。


「まったくあんたいつの間にそんなに強くなったのよ」

 あきれながら、美咲は言った。

 彼女は戦闘には参加していない。

 怪我をしないように後ろに離れていった。

 残りの敵は私たちにまかせて。


 私は零子さんと背中あわせに立った。

 背中をあずけられる相手ってなんかかっこいいね。

 私は血だらけの曲がった金属バッドを肩に乗せた。

「あと少しね」

 零子さんに私は言った。

「そうね。あなたの武器、かなり痛んできているみたいね」

 零子さんは言った。

 たしかにこの金属バッドはベコベコに曲がってきている。

「うん、でもこの戦いは切り抜けれそうよ」

 そう言いながら、私は迫り来るゾンビの頭を真上から叩き潰す。

 ベコッ。

 また金属バッドが歪む。

 もうすぐこれも使いものにならなくなるだろう。

 私もあいつの斬鉄剣流星のような武器が欲しい。

 強い武器があればもっと多くの人を守れるし、あいつのことだって守ってあげられる。

「この戦いが終わったら、新しい武器を造りましょう。なんせ私の職業クラスは錬金術師だからね」

 会話を交わしながらも零子さんは立て続けにゾンビの頭を打ち砕いていく。



 ほどなくして私たちはすべてのゾンビの掃討に成功した。

 辺りは文字通り血の海であった。

 私はその残酷な光景を見ても特になにも思わなくなった。

 あいつにサキュバスにされてから、なんだか普通の感覚がなくなりつつある。

 一番にあるのはやはり生存本能だろう。

 そう、私は死にたくないのだ。

 死にたくはないし、あいつをはじめとした皆を見捨てたくはない。

 セイレーンたちとこの世界を生き延びたい。

 せっかくあのQ作さんたちの申し出をことわってまでこっちに戻ってきたのだから、私は絶対にいきのこってみせる。



 ゾンビたちの死体の上で零子さんは胸の谷間から銀のイースターエッグを取り出した。

 一度、変身をときもとのライダースーツ姿に戻る。


 どうやら変身する度に一度裸にならなくてはいけないようで、ゾンビの山の上で素っ裸になっている零子さんはアマゾネスのような神々しさがあった。

「さあ、グレムリン、賢者の石を吸収しなさい」

 零子さんは言った。

 イースターエッグに口が浮かび、大きく口を開く。

 そしてその口の中にゾンビの頭からでてきたクリスタルが吸い込まれていく。

 その光景はあいつの左手にやどった月読姫がクリスタルを食べるシーンに酷似している。

 私もいくつかクリスタルを集め、胸の谷間とパンツのポケットに入れた。あいつが目覚めたらきっと必要になるだろう。

 残りのクリスタルを吸収するとグレムリンはゲップをして元の卵に戻った。

「さあ、エネルギーは充填されたわ。次にあの巨人のハンマーから新しい武器を錬成しましょう」

 墓標のように地面に突き刺さる巨大ハンマーに零子さんは手をかざす。

 ハンマーは目を開けてはいられないほどの光に包まれた。

 零子さんの胸元も光っている。

 おそらく彼女の胸の谷間に戻されたグレムリンも輝いているのだろう。


 数秒後に光が消えるとそこには二つの武器が出現した。

 ライフルと長剣ブロードソードであった。

「これヴァシリの狙撃銃ライフルね。モード狙撃手スナイパーを手に入れたわ。そしてこれはあなたの長剣よ」

 零子さんは重そうにその長剣を取り上げると私に手渡した。

 刃渡り一メートルはあろうかというその長剣ブロードソードはたしかにずっしりと重かった。

「それはゼノビアの剣ね。かつてローマ皇妃アウグスタを名乗った戦女王ゼノビアが使用した剣よ」

 たしかにその刃からはただならぬ雰囲気をかもしだしていた。

 金属バッドなど比べ物にならないほどの攻撃力がありそうだ。



 戦いを終えた私たちはセイレーンさんが用意した食事をとり、それぞれの部屋で休むことになった。

 私はあいつの部屋に行き、ベッドに忍び込んだ。

 すやすやと眠るあいつの背中に抱きつき、私は眠ることにした。

 すぐに戦いの疲れだろう、眠気に襲われた。

 そういえばあの小学校を出てから、ほとんどあいつと一緒に眠っているな。

 あいつの肌の暖かさがないと私はどうやら落ち着いてねむれないようだ。

 さすがは私の主人マスターといったところか。


「嬢ちゃん、迷惑かけたな。だが君に渡した魔書グリモアールならこの危機を乗り切れると思ってな。事実乗り切れたしな。しかし嬢ちゃんがあの怪人二十面相だったとわね。さあ、今は安心して眠りな。ここはもう少しこの魔法使いが見といてやろう」

 ペストマスクの男が言った。

 どことなくあいつのお父さんの声に似ていたが、異常な眠気に襲われた私は眠ってしまった。

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