第81話 鉄馬の騎士
「助かったわ、ありがとう」
私は美咲に礼を言った。
「しっかりしてよね。ぼうっとしてる場合じゃないわよ」
眉をよせ、美咲は言った。
たたんでいた背中の蝶の羽を広げ、美咲は空中に飛んだ。
私は愛用の金属バッドを肩にかつぎ、巨人から距離をとる。
「さきほどから聖歌でこの巨人の動きを封じようとしているのですが、どうやら耐性があるようできかないないのです」
セイレーンは整った顔を左右にふった。
「わかったわ、セイレーンさん。下がっていて、もし私たちが傷ついたら治療してちょうだい」
私の言葉にセイレーンは頷くと後方のビルの物陰に隠れた。
空中に飛んだ美咲は手に石を持っていた。
それを大きくふりかぶり、巨人にむかって投げつけた。
その石は見事に巨人を形成するゾンビの一つの顔に命中した。
ちょうど、右肘の部分のゾンビだった。
そのゾンビは女のゾンビだった。
髪のほとんどが抜け落ちた気味の悪いゾンビだった。
そのゾンビは口から赤い血をだらだらと垂れ流した。
しかし、それほどのダメージは与えられいないようだ。
まったくひるむことなく、巨人はその手に持つ巨大なハンマーを振り上げると、一気に振り下ろした。
私は全速力で駆け出し、そのハンマーの下をかいくぐる。
それほどのスピードでないのが幸いだ。
巨大なハンマーは私の頭上を駆け抜けると、またもや地面に巨大なクレーターを出現させた。
細かい石や砂が私の体にふりかかる。
嫌だ、ちょっと痛いじゃない。
私はふりかかった砂を払い、手に持つバッドに力をこめた。
ダッシュで近づき、右足のすねめがけて、フルスイングで金属バッドを
叩きつける。
グベッ!!
右足を形成するゾンビが醜い声をあげ、血を口から吹き出した。
確実に傷つけているが、やはり全体的なダメージはそれほどだ。
巨人は動きを止めることなく、巨大ハンマーを振り上げる。
「い、痛いじゃないか。お、おまえ柔らかそうだから、おまえから食ってやる」
巨人は聞き取りにくい声でそう言うとハンマーを一気に振り下ろした。
私はその攻撃をかわすべく、後方に飛び退く。
しかし、運が悪いことに着地したところにあった突き出た瓦礫に足をとられ、背中から倒れてしまった。
もう一回ジャンプすればその攻撃を避けることは容易いが、そうはいかなくなった。
しこたま背中を打ちつけた私は上半身を起こすのに精一杯だった。
「危ない!!」
そう叫び、美咲が私の体に抱きつく。
私を助けるために美咲はその場所から飛び立とうとする。
いいやつになったね美咲。
でもごめん、わずかに巨大ハンマーのほうが速い。
私は思わず、目をつむった。
「お姉ちゃん!!あの兎の懐中時計を使って!!」
頭の中にあのモヨ子の声が響いた。
私はその声に導かれるように胸の谷間に隠しておいた仕立て屋兎の懐中時計を握りしめた。
蓋がぱかりと開く。
カチカチと時を刻んでいた長針と短針がぴたりと止まった。
それと同時にあの巨人の動きがぴたりと止まった。
「それがあなたの魔書不思議の国のアリスから取り出した懐中時計の能力よ。任意の相手の時間を操作する能力……」
その言葉の後、またザザザッというノイズが発生した。
「お姉ちゃんと交信できる限界がきたみたいね。じゃあまたね、私たちはいつもいつまでもお姉ちゃんの味方だから……」
その声を最後にモヨ子の声は聞こえなくなった。
私たちは立ち上がり、美咲の体をささえながら、その場から離れた。
「アヌウッッッ……」
時を止めていたはずの巨人が少しずつではあるが、動きだそうとしている。 どうやら私の今の能力では少しの間だけ停止させるのが限界のよだ。
しかし、どうしよう。
動きは止めることはできたが、攻撃はほぼきかない。
このままではじり貧だ。
「手を貸そう!!ガールズ!!」
バイクの駆動音と共にその場所に女性の声が響いた。
そのバイクはハーレーダビットソンであった。
ライダースーツに身を包んだびっくりすほどスタイルのいい女性だった。
ハーレーダビットソンにまたがるその女の人はヘルメットをとった。
金髪の髪が月明かりを反射する。
青色の瞳が宝石のサファイアのように美しい。
息をするのも忘れるほどの美貌だった。
「あ、あなたは……」
私は訊いた。
「私は難波零子。魔女にして錬金術師よ。この狂った
難波零子と名乗った美貌の人は腰のホルスターからやたらと長い銃身の銃を引き抜き、身構えた。
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