第79話 二十の魂

「どうして私だけなの……」

 私は訊いた。

 ゾンビのいない世界にこられるのなら、安藤さんや百合ちゃんも連れてこられたらよかったのに。

「それはね、あなたが私たちと魂を分けた兄妹だからですよ。まさか平行異世界に行っていたとは思いもつきませんでしたけどね」

 またQ作はアイスコーヒーを飲む。

「私もあなたもQ作ももともとは一人だったの。二十人のうちの一人なのよ」

 今度はモヨ子が言った。

 彼女の言葉はさっぱり訳のわからないものだった。



「モヨ子の言う通り、僕たちはもともと一人だったんですよ。寂しがり屋の一人の人物だったのです。その人は寂しさのあまり自分の中に別の自分をつくりだしました。その別の人格と友達になりました。楽しくなったその人は次々と人格をつくっていったのです。合計二十もの人格を造り出しました。やがてその人格は魂へと昇華したのです。そしてその人物は寂しくなくなりました。だけど、どんな人物にも死はやってきさます。死の間際、その人物は自らにやどった二十もの魂をひとつひとつ解き放ちました。簡単に言いますと僕もモヨ子もQさん、あなたも元をたどればその人物から生まれた魂を受け継いでいるのです」

 そう言うと、Q作はアイスコーヒーを飲み干した。

「とある作家から魔書を譲り受けた私は散り散りになった魂の兄妹を探すために探偵になったのです。時には人の夢に潜り込む心渡りの探偵となったのです」

 Q作は言った。

「私もその魂を受け継いでいる一人だというの……」

 私は訊いた。

 にわかには信じがたい話ではあったが、この不思議な状況を見る限り、信じざる終えない。

 それに目の前の男と少女と私はどこか似ているような気がしてならない。


「僕たちのもとになった人物は別名怪人二十面相と呼ばれました。姿形、人格まで変える希代の怪盗だったのです。何せ二十もの人格を使いこなせたのですから……」

 Q作は言った。



 怪人二十面相。



 その名前を聞いた瞬間、私の心の奥底が揺さぶられるのを感じた。

 初めて聞く名前であったが、妙な懐かしさがあった。

 間違いない

 私は確信した。

 遠い過去、前世ともいっていいぐらいの過去に私はそう呼ばれていた。


「その名前を聞いて君も何か思うところがあるようですね。それが間違いなく、僕たちが魂の兄妹という証拠さ。さて、魂の兄妹のよしみだ。君をあのゾンビが徘徊する世界から助け出してあげよう。ただし、それは君だけだ。私が助けられる、そして、こっちの世界にとどめることができるのは君だけだ」

 あまりにも魅力的な提案を夢のQ作は私にした。

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