第78話 喫茶店での邂逅
視界が光を取り戻すと私は何故だか、喫茶店にいた。
純喫茶というのだろう。
カウンターでは白髪のかなり渋い感じのマスターがコーヒーを淹れていた。
四人がけの座席に私は座っていた。
長いテーブルを挟んでむかいにお釜帽に着物を着た男が座っていた。
その隣にはゴシックロリータの金髪美少女が虚ろな目で男の端正な顔をじっと見ていた。
私は彼女を知っている。
モヨ子だ。
「やあ、初めまして。僕は心渡りの探偵夢野Q作。君と同じ魂を持つものさ」
その若い男はそう名乗った。
その男は夢野Q作と言った。
偶然だろうか、私と同じ姓だ。
白髪のマスターが私の前にクリームソーダを置いた。
メロンソーダにアイスがのっているものだ。
探偵を名乗る男の前にはアイスコーヒーを。その横のモヨ子には苺のシュートケーキと甘そうなカフェオレが置かれた。
「ご注文はお揃いですか?」
白髪のマスターは会釈して、そう言った。
「ええ、ありがとうございます」
と夢野Q作は言った。
「さあ、どうぞ召し上がってください。なに毒なんてはいっていませんよ。なぜならあなたは私にとって身内のようなものですからね」
お釜帽の男はにこやかに語りかける。
身内?
どうしてこの男は初対面の私にこんなに親しく、やさしくはなしかけるのだろうか?
そしてその語りかけられる言葉はどこか暖かみがあった。
私は恐る恐るそのクリームソーダにスプーンをいれた。
アイスをすくい、口に入れる。
久しぶりの冷たさと甘さだった。
私は自分の欲求を押さえきらずにアイスを食べ、ソーダを飲んだ。
口の中にアイスの甘さが広がる。
その甘い感覚に涙がでそうになった。
ずっと保存食ばかりだったので、この甘さは飛び上がるほどの美味しさであった。
「いやあ、君も苦労したんだね」
ずずっとアイスコーヒーをすすりながら、夢野Q作は言った。
「この状況を説明してくれるかしら」
私は訊いた。
ついさっきまで私はあの不気味な巨人と対峙していたはずだ。
この不思議で不自然な空間を説明してくれるのは彼しかいない。
「ええ、もちろんですよ」
ふふっと夢野Q作は笑顔を浮かべた。
「ここはね、私とモヨ子が住む世界ですよ。ゾンビなんかは徘徊しない世界。君の住む世界とは別の世界。いわゆる
夢野Q作は言った。
パラレルワールド?
ここはあのゾンビだらけになった世界ではないということなの。
ちらりとガラス窓から外を見た。
そこはもはや懐かしい普通の景色が広がっていた。
スーツを着た男の人が忙しく歩き、子ずれの親子が信号待ちをしていた。
「なぜ、私は急にこっちにこれたのかしら」
私は訊く。
「まあ、急ではありませんけどね。あなたが夢見の力を得てから何度かアクセスを試みていたんですよ」
夢野Q作は言った。
「そうだよ、お姉ちゃん。あっちの世界に行くのはけっこう大変だったのだから」
モヨ子は言った。
「それでですね。あなたをこちら側に召喚できたのはこの
夢野Q作は言った。
夢野Q作は一冊の本をテーブルの上に置いた。
裸の女の人が表紙にデザインされた、私の不思議の国のアリスと同じように装丁が美しい本であった。
その表紙の女の人は彼の横に座るモヨ子にどことなく似ていた。
「これは魔書ドグラマグラ。君の持つ不思議の国のアリスと同じ
魔書ドグラマグラの表紙をなでながら、夢野Q作は言った。
モヨ子は美味しそうに苺を口にいれた。
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