第71話 天使ラファエロ

 まさか僕が浄化したことによりQの時のように種族が変わったということだろうか。

 よりによって天使、しかも黙示録の四騎士だなんて……。

 こんなに間が悪いことがあるだろうか。

 僕は体力がなく、ふらふらだ。

 立っていられるかどうかという状態だ。

 天使と対峙する余裕はまったくない。


 これは予想外だわ。

 万能の霊薬エリクサーは種族を上位種に変化させる力があるけど、ここまで種に変化するなんて。私のデータにもないわ。

 これってもしかしてあの方の手が加わっているのかしら。

 月読姫が頭の中でぶつぶつと意味のわからないことを言っている。


 僕ができるのはどうにか立って、セイレーンの姿を見ることだけであった。


「プログラムに準じて大罪人を処罰せよ。プログラムに準じて大罪人を処罰せよ」

 その声はセイレーンの口から発せられていたが、まるで別人の男の声であった。

「原罪を持つ人間はその罪に応じた罰をうけなければいけない。人は人であるかぎり罪を背負わなければいけない。人は生まれたときから罪人なのだ。すべての人間は地獄に落ちるのだ。ゴルゴダの丘ですべての人間はロンギヌスの槍を受けなければいけないのだ」

 天使となったセイレーン、いや、もうラファエロは男の声で意味不明なことを言っている。

 こんな時に父さんがいれば色々教えてくれるのに……。

「この街は子羊の街。生け贄の街。アブラハムの子イサクの街。人が罪をあがなうための街なのだ。他者は眠り待つしかないのだ。罪を償うために」

 ぜえぜえとラファエロは息をはきながら、言った。


「プログラムに準じて大罪人を処罰せよ」 

 目の輝きが完全に変わった。

 どうやらセイレーンの体はその天使ラファエロにとってかわられたようだ。


「お、おまえたち何をしているんだ」

 そう叫ぶのは海老原だった。

 赤い顔で僕たちのことを見ている。

 興味本位かなにかで僕たちのことを見に来たのだろうか。

 天使になったセイレーンに海老原はジャケットの内ポケットから拳銃をとりだした。

 そんなものどこから持ってきたのだ。

 震える手で銃口をむけている。

 だめだ、そんのもののでどうにかなる相手じゃない。

 僕は彼の行為を止めようとした。

 だが、体は思うように動かない。


「うわー!!」

 叫び声にも似た狂声をあげて海老原は引き金をひいた。

 発射された銃弾はラファエロの額に命中したが、その肌を一ミリも傷つけることなく床に落ちた。

 ゴミを見るような目でラファエロは海老原の顔を見た。

 彼に近づく。

 恐怖にかられた海老原は拳銃を乱発するが、そのすべてがラファエロを傷つけることなく床に散らばった。

 カチカチと海老原は引き金を引くが、もう弾丸は尽きたようだ。

 何も発射されない。


 ラファエロは右手を上げ、勢いよく振り下ろす。

 瞬時に海老原の脂肪たっぷりの体は引き裂かれ、彼は絶命した。


「ふん、つまらぬ人間だ」

 ラファエロは冷たく言った。

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