第66話 魔女セイレーン
美咲の案内で僕たちはセイレーンが住むという雑居ビルに向かうことになった。
ハンドルを握るのはもちろんQだ。
シートベルトはしっかりとその特大巨乳に食い込んでいる。
道交法なんて無いに等しくなったこんな世界でQは律儀にシートベルトを閉めていた。
美咲は後部座席で道案内した。
三十分ほど車を走らせると、目的地である繁華街にある雑居ビルに到着した。
助手席でうとうとしていた僕をQが起こす。
目を覚ますとQの愛らしい顔があった。
「ほら、着いたわよ。でもなんかよくない感じね」
そうQは言い、車窓の外を指差した。
ビルの入り口付近に約十体ほどのゾンビがウーウーとうなり声をあげながら、その辺りをうろついていた。
どうやらまたゾンビたちをかたずけないといけないようだ。
僕たちは車の外に出た。
「ちょっくら片付けるか」
Qは金属バッドを肩にかつぎ、言った。
「そうするか」
僕は斬鉄剣を抜刀し、身構える。
「ちょっと待っててね、私は中の人に連絡してくるからね」
そう言い、美咲は背中の蝶の羽を広げ、ビルの窓めがけて飛んでいった。
車を降りた僕はゾンビの一体めがけてダッシュする。
もちろん両足を三日月で強化している。
斬鉄剣を振り上げ、真横一文字に走らせる。
ゾンビの首を簡単にはねる。
返す刀で後ろに迫っていたゾンビの頭を貫く。
Qは隣で金属バッドをフルスイングし、ゾンビ一体の頭を粉砕した。
真上に金属バッドをかかげたQはもう一体のゾンビの頭を叩き割る。
僕は倒れたゾンビたちに左手のひらをむける。
左手の月読姫は大きく息を吸い、剥き出しになったクリスタルをすべて吸い込み、バリバリと食べた。
何体かゾンビを倒すと、パンッという乾いた銃声がした。
ライフルをもった男がゾンビの頭を撃ち抜いていた。
かなり汚れているが、警官の制服を着ていた。
彼は僕たちを手招いた。
「君たち、こっちにきたまえ!!」
と言った。
斬鉄剣流星で目の前のゾンビの首をはねると、僕はそちらにむかって駆け出した。
Qも後に続く。
ライフルをもった警官の後ろに車イスに座ったフードを深くかぶった人物がいた。
僕たちはそこにたどり着いた。
「君、すごく強いな」
にこやかに警官は言った。
引き金を引き、警官はゾンビ一体の頭を撃ち抜く。
なかなかの腕前だ。
「まあね」
僕は笑顔で答えた。
けっこうゾンビは片付けたつもりだが、ゾンビはまだまだ残っていた。
まずいな最初見た時よりも増えているな。
こいつはきりがないな。
車イスの人物はフードを外した。
僕はその顔をみて、驚愕せざる負えなかった。
その顔は醜くただれ、目は紫色に腫れ上がり、髪は真っ白に染まっていた。
はっきりいってそれは異相であった。
ただれた傷口から緑色の膿が流れ出していた。
げほげほと咳き込む。
口を押さえた手のひらには赤い血がついていた。
「セイレーン、無理しちゃダメよ」
車イスを押している美咲が言った。
「わかっているわ。でもいいのよ。ここは私にまかせなさい」
その声は若い女性のものだった。
彼女はその胸のふくらみの前で両手を組み、祈りの姿勢をとった。
彼女は歌を歌った。
あ、この歌しっている。
車の中で聞いた中森聖子の歌だ。
何故、この場所で歌なのかと疑問に思ったがその答えは目の前の光景が明らかにした。
集まりつつあったゾンビたちがその歌を聞いたとたん、踵をかえし離れていった。
しばらく車イスの女性が歌っているとゾンビたちは消えていった。
「はじめまして、私はセイレーンの魔女よ」
と車イスの女性は言った。
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