第60話 怪僧ラスプーチン
僕は肩で息をしながら、その声の方向を見た。
特殊部隊の隊員たちの間から一人の男があらわれた。
かなり背の高い男だ。
ニメートル近くあるだろう。
それに体格もかなり立派であった。
教会の神父が着る黒い服を着ている。
その服の下はラグビーの選手のような筋肉が見てとれた。
黒い濡れた髪と鷲鼻の上に乗せた丸形のサングラスが特徴的だった。
銃口は僕たちにむけられたままだったが、その男がでてきたことが原因だろうか、銃口から弾丸が発射されることは無かった。
僕は斬鉄剣の切っ先をその男にむけた。
臨戦態勢をとくわけにはいかない。
「まったくケルベロスの連中は乱暴でいかんな。フランケンシュタインがプログラムした通りにしか動かんからな。だが、まあそれでこそ番犬か……」
神父服の男は言った。
「君が七つの大罪人かね」
神父服の男は問う。
「その呼ばれかたは嫌だけど、どうやらそうらしい」
僕は言った。
あの下にいたゴルゴーンの三姉妹もそうだが、何故やつらは僕のことをそう呼ぶのだろうか。
陽美があたえた七つのギフトとなにか関係があるのだろうか。
「しかし、君。ずるはいけないな。この壁を越えたければ四つのアルカナを集めなくたはいけない。ゲームを攻略するには順序というものがあるのだろう。それを破ってはいけないな」
神父服の男は言った。
服の胸元から拳銃を取り出すとそれを僕にむけた。
その銃は黄金色に輝いていた。
趣味の悪い銃だ。
聞こえるかね。
それは目の前の男の声だった。
だが、男は唇を動かしていない。
喋っていない。
男の声は僕の頭の中で響いていた。
僕は小さくうなずいた。
私は十二使徒が一人、徴税人のマタイまたの名をラスプーチンという。
まさか目の前の男が父さんの言っていた十二使徒という組織の一人なのか。
ラスプーチン、たしかロシア革命で死んだロシアの怪僧がそうだったはずだ。
何度も殺しても死ななかった不死身の男だ。
そうだ、私は十二使徒の一人だ。だが、バルトロマイやヤコブたちのように人間の進化に興味はない。
私が彼らに協力するのには別の目的があるのだ。
ラスプーチンは僕の心の中に語りかける。
彼の言い分を信じるなら十二使徒というのも一枚岩ではないようだ。
ああ、そうだ。そう思ってもらってかまわない。
心の中で男、ラスプーチンを肯定した。
私がだす条件をのんでもらえればこの場を見逃してやろう。
君には選択肢は少ないと思うがね。
条件とは?
僕は訊いた。
たしかにラスプーチンの言う通り、絶体絶命とまでいかないが、危機的状況には違いない。
白狼レヴィアタンと共闘すればなんとかこのケルベロスと呼ばれた機械人間たちをたおすことは出来るかもしれないが、それになんの意味があるだろうか。
そうだろう。君の目的はイスカリオテを見つけ出すことだろう。
我々を殲滅することが目的ではないはずだ。
ラスプーチンは心の中に問いかける。
たしかにそうだ。彼らと戦っても得るものはすくないだろう。
それでその条件とは。
僕はラスプーチンに問いかける。
それでは条件を言おう。
この封鎖された都市に私の敬愛するアナスタシア皇女殿下がいらっしゃる。アナスタシア皇女殿下の復活にようやく成功したのだが、その魂の定着の不安定なまま都市の内部に逃げ出してしまったのだ。皇女殿下を探しだしてもらえるなら、君たちをこの場から逃がしてやろう。
ラスプーチンはそう提案した。
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