第61話 落ちていく二人

 その提案を拒否すればどうなる?

 僕は訊いた。

 

 普通にテレパシーで会話しているのに僕は少し驚いていたが、驚いている場合ではないのも事実だ。


 拒否すれば君たちは私とこのケルベロスたちを相手にしなくてはいけない。

 君たちの勝率はかなり低くなると思うがね。

 知っているかもしれないが、私は殺しても死なないのだよ。


 たしかにケルベロスと呼ばれた機械人間だけなら僕と白狼レヴィアタンでどうにかなるかもしれない。

 だが目の前のラスプーチンの戦闘力は未知数で、ここでギャンブルめいた行動に僕は意味をみいだせないでいる。

 仮に勝てたとしても僕の本来の目的である陽美をみつけることができるとは限らない。

 今、やつらと戦う意味はない。


 わかった。今は僕たちはこの場にいるべきではないようだ。

 そのアナスタシアっていう人をみつければいいんだな。


 うむ、君が賢明で助かるよ。

 アナスタシア殿下は銀のイースターエッグをお持ちだ。それを手がかりにしてくれたまえ。それではさらばだ。


 心の中でラスプーチンは言うと黄金銃の引き金に指をかけた、

 そしてその指を引く。

 黄金銃の銃口から火花が飛び散り、弾丸が発射される。

 弾丸は回転しながら空を裂き、僕に襲いかかる。

 三日月で強化された動体視力によってその弾道はスローモーションのように見てとれた。

 僕はその弾丸をわざと左肩に受けた。

 わざとだが、わかっていてもめちゃくちゃ痛い。

 僕はその弾丸に吹き飛ばされる様を装いながらQの腰をつかみ、壁の外に飛び出した。

「キャアア!!」

 甲高い声をQはあげる。

 彼女には何がおこっているのかわからないのだから当然だろう。

 後で説明しなければいけないな。

 僕はQの体を抱きよせ、壁から落下する。

 左肩の傷を月桂樹で治癒する。

 すぐに傷はふさがり、その傷口から弾丸が吐き出された。


「Q、一旦この場所から離れよう」

 僕は言った。

 その間にも僕たちは地面にむかって落下していく。

 油断していたらすぐに地面に激突してしまう。

 ぱっと真横をみると白狼レヴィアタンが空をかけていた。

 白狼レヴィアタンは僕の横にかけよる。

 どうやら彼は空中を駆ける能力があるようだ。

「Q、白狼の背中につかまろう」

 僕は落下する風に顔を殴られながら、言った。

「わ、わかったわ」

 Qはそう言うとミスリルコートを脱ぎ、手に持った。

 Qは背中のコウモリの翼を羽ばたかせ、白狼にしがみついた。

 なんとか僕たちは白狼レヴィアタンにつかまることに成功した。

 固い狼の毛にしがみつき、僕たちは地面に降りていく。

 白狼レヴィアタンは何度か空をけると勢いよく地面に着地した。

 僕たちはふらつきながら、地面に立った。


 着地した僕たちをゴルゴーンの三姉妹が出迎えた。

「お早いお帰りですね」

 黒髪のメデューサは言った。

「ずるはいけませんね」

 金髪のエウリュアレーが言った。

「ゲームは順番を守らないといけませんね」

 赤髪のステンノーが言った。

 六つの瞳が殺意をこめて、こちらを見ている。


「わかったよ。アルカナだかなんだか知らないが、全部集めてきてやるよ」

 僕は言った。


「うふふっ。そう簡単にあなたがたを逃がしはしませんよ」

 黒髪のメデューサが言った。

 ゴルゴーンの三姉妹が僕たちを取り囲む。

 くそ、壁の頂上から逃れたもののまた奴らを相手にしなくてはいけにのか。

 頂上であの機械人間を相手にして、僕はけっこうつかれている。

 若干ではあるが、目が霞む。


 その時、僕とゴルゴーンの三姉妹の間の空間がぐにゃりぐにゃりと歪みだした。

 この光景は前にも見たことがある。

 八雲神社の石階段で十二使徒のフィリポことフリッツ・ハーバーが出現した時と同じだ。

 くそ、ゴルゴーンの三姉妹に加え、十二使徒を相手にしなくてはいけないのか。

 一難去ってまた一難か。

「な、なんか来るよ」

 Qがその空間を指差す。

 白狼レヴィアタンが牙をむき出し、警戒する。


 空間から小柄で端正な顔立ちの初老の男が出現した。

 続いて黄金色の肌の人物があらわれた。

 くりくりの大きな瞳にちりちりの頭が特徴的だった。

 だが、その表情には感情というものが読みとれなかった。

「私は十二使徒の一人タダイにして西村真琴。七つの大罪人、この学天即とともに助太刀しよう」

 その初老の人物は声高々に言った。




 

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