第55話 両親との別れ

 翌日、僕たちはリビングで朝食をとった。

 長期保存のきくパンとコーヒーという簡単なものだった。

 コーヒーは父さんの好みの砂糖をたっぷりいれたものだった。

 Qは紅茶をいれてもらっていた。

 この甘ったるいコーヒーは懐かしい実家の味だ。

「それで、これからどうするんだ」

 と、父さんは訊いた。

 

 天使ウリエルはなんとか撃破できたが、それ以外の手がかりがない。

 残りの黙示録の騎士はどこにいるのだろうか。

 あと三人の騎士を倒さなくてはいけない。

 さて、どうしたものかと思案しているとQが口を開いた。


「ねえ、私たちを閉じ込めている壁を見に行ってみない。田沼さんが一度見にいったんだけど手前で逃げ帰ってきたのよね」

 Qはスイカなみの巨乳の前で手を組んでいった。

 次の目標がない今、僕はその意見に賛成だった。

 僕もその壁とやらを見てみたい。

 どのようなものが僕たちを隔離しているというのだろうか。


「そうか、そうだな。じゃあおまえたちはその壁を偵察してくれ。俺たちは別の気になるところがあるんで、そっちを見てくるよ」

 父さんは言った。


 え、ということは父さんたちは一緒にきてくれないのか。


「なんだ、お前。寂しいのか」

 父さんはいつものへらへらとした顔で言った。


「月彦もついに親離れね。私もちょっと寂しいわね。でも、あなたなら大丈夫よ。月彦は私たちの子供だからね。さあ、これを持っていきなさい」

 そう言うと母さんは愛用の黒コートを着せてくれた。

 初夏にコートと思ったが、このコートはちっとも暑くなかった。

 むしろ涼しいぐらいだ。

 いったいどうなってるのだろうか。

 まったく不思議なコートだ。

 それに着ているとなんだか力が湧いてくる。

「それはね、失われたドワーフの技術が使われているの。ミスリルという魔法の繊維が使われているのよ。防御力に優れ、少しだけど回復効果もあるのよ。私たち黒桜が妖魔と戦うために作ったものよ」

 母さんは言った。

 これがあればこれからの戦いも少しは楽になるだろう。


「なら、俺からはこれをあげよう」

 そういうと父さんは一冊の本をQに手渡した。

 革の装丁も立派な本であった。

 表紙には金髪の愛らしい少女が描かれていた。

 本のタイトルは「不思議の国のアリス」だった。

 こんなのがなんの役にたつのだろうか。

 僕は不思議に思った。

「嬢ちゃんは夢見の能力があるみたいだからな。この魔書グリモアールが役にたつだろう」

 と父さんは言った。

「嬢ちゃん、この本をよく読むんだ。そうしたら、この本はきっと君の味方をしてくれるだろう。この魔書グリモアールは物語を愛する者の味方だからな」

 そう言い、父さんはコーヒーをすすった。

「こいつはな、俺のもう一人の親友が残していったものだ。あいつは天野とはちがった意味の天才だった。あいつはこの世に百冊の魔書を残していった。その内の一つがこれだ。俺たちはこの世界の真理を探すために残りの魔書を探そうと思うんだ」

 父さんは言った。

 そして、母さんは頷いた。


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