第47話 二つの十字架

 流星群のように降り注ぐ白い羽に対処すべく、僕は斬鉄剣で迎撃する。

 僕はさらに両腕を三日月で強化する。

 最大限まで強化すると、両腕の筋肉が悲鳴をあげた。

 その痛みを月桂樹で和らげる。

 今は多少無理してでもこの刃のような羽を撃ち落とさなければいけない。

 僕は凶悪なそのナイフのような羽を切り裂いていく。

 斬鉄剣で白い羽を次々と撃墜する。


 母さんは右手に軍刀サーベル、左手にその鞘を持ち身構えた。

 二刀流の構えだ。

 母さんの頭上も真っ白に染まっていた。

 両手を目一杯後ろに引き、母さんは軍刀と鞘を一息に突き出した。

 それはまさに目にもとまらぬ速さだ。

 母さんは両手で三ツ星を繰り出した。

 しかも、それを三連続でだ。

 合計十八撃にもおよぶ突き技を打ち出す。

 だが、それは一秒よりも短い、一瞬の時間のうちに打ち出された。

 三日月で強化した動体視力でもその軌跡を追うのが精一杯であった。

 白い羽は僕たちの攻撃により、撃ち落とされていく。


 しかし、それにしても数が半端ない。

 少しでも気をゆるめたら、あの鋭い刃で切り刻まれるだろう。

 まったくもって気をぬくことができない。


 僕も母さんから模倣コピーした三ツ星を打ち出す。

 斬鉄剣がギラリと輝いた。

 斬鉄剣は加速され、周囲にある羽をあるいは落とし、あるいは粉砕していく。

 しかし、くそ、威力はすさまじいが、なんんて反動だ。

 腕の毛細血管が破裂して、激痛が走る。

 この技を繰り出すには腕の動きを音速近くまで加速させないといけない。

 そこまで三日月で強化して加速させると今度は腕の血管が悲鳴をあげ、ぶちぶちと切れていく。

 すぐに腕は内出血で真っ青になっていた。

 僕はその傷を月桂樹で治癒する。

 この技を平然とつかう母さんはいったいどんな修練をしたのだろうか。


 Qも金属バッドをふり、雨あられとふりそそぐ羽を撃ち落とす。

 しかし、母さんや僕のようにうまくいかない。

 サキュバスとなり肉体を多少なりとも強化しているとはいえ、それは無理難題といえた。

 いくつかの羽を打ちもらし、Qのむっちりとした太ももと特大おっぱいの肉を切り裂いた。

 だらだらと血が吹き出す。

「痛い!!」

 Qはその愛らしい顔を苦痛にゆがめた。


 僕は白い羽を迎撃しながら、Qに近づき、彼女を月桂樹の能力で治癒した。

 淡い光につつまれたその傷口はすぐにふさがり、元通りになった。

「Q大丈夫か?」

 僕は急ぎ訊く。

「あ、ありがとう」

 Qは金属バッドで残りの羽をふせぎながら言った。


「ひゃあ、危ない危ない」

 父さんはのらりくらりと母さんや僕の影に隠れながら、逃げ回っていた。

 父さんの頭に降り注ぐ羽は母さんがその超人的な剣技ですべて撃ち落としていた。

 僕たちはどうにかその羽のすべてを撃ち落とした。


「どうにか防げたかな」

 父さんが僕に話しかけた。

 僕も肩で息をしながら、頷いた。

 さすがの母さんも額に汗が浮かんでいた。

 その汗をを手の甲で乱暴にぬぐった。


 ゆっくりと天使ウリエルは降りてくる。

 僕たちはその攻撃を防いだだけで、この天使には当然ながら攻撃をあたえたわけではない。

 地上よりすこし上で停止し、ウリエルは浮遊する。

「ただ、殺すだけではつまらぬな。一つ趣向をこらすとするか」

 そういうとウリエルは人差し指をQにむけた。

 次の瞬間、Qの足元も地面が盛り上がり、白い十字架が生えた。

 それはあっという間の出来事だった。

 Qの豊満な体は宙に浮かび、両手両足が開いた状態ではりつけにされた。

 どこからかあらわれた鉄の釘によって両手両足が打ちつけられ、十字架に縫い付けられた。

「きゃあああっ!!」

 苦痛のため、Qは悲鳴をあげる。


 すぐさまウリエルは母さんに指をむけた。

 母さんはなんとかその見えない攻撃をかわそうとしたが、うまくいかなかった。

 やはり見えないものを感覚だけでよけるのはかなり難しいようだ。

 母さんは一度は避けたものの、着地する寸前に見えざる手のようなものでつかまれ、地面から生えた十字架にはりつけにされた。

 くっと母さんは苦痛にその美しい顔をゆがめた。


 それはわずか数秒のできごとであった。


「さあ、罪人よ。選ばせてやろう。お前が助けたいどちらかの命を救ってやろうではないか」

 ウリエルはその秀麗な顔に憎らしい笑みを浮かべて、言った。


 

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