第46話 第一の騎士

 その人物から発せられる光はあまりにも眩しく、目を開けているのがやっとだった。

 背中に生えた優美な翼を羽ばたかせて、その生き物は浮遊していた。

 つまらなそうにこちらを見ている。


 僕は左手の月読姫をむけ、他のゾンビたちと同じように素質ステータスを見た。

 僕はそのデータを見て、驚愕せざるおえなかった。


 種族天使。

 特技 飛翔、治癒、魅了、高速移動、支配とあった。

 すべてのパラメータがずばぬけている。

特に耐性と魔力はグラフからはみでている。

 今まで遭遇したどの怪物たちとも比べることはできなかった。


 Qは震えながら、僕の腕に抱きついた。

「あ、あいつ滅茶苦茶やばいよ」

 歯をがたがたと震わせながら、Qは言った。

 

 彼女の言う通りだ。

 文字通り、奴は人知を越えた存在だ。


 僕は奴の姿を見ているだけで、かなりの精神力が削がれるのを感じた。

 あの光の人物は見ているだけで、こちらの戦意というのを根こそぎ奪っていく。


「ありゃあ、天使だな。まあ見たまんまだが、生でみるとすごい迫力だな」

 無精髭をなでながら、父さんは言った。

 父さんだけは物見遊山の雰囲気だった。

 どうして、この人はこんなに余裕なのだろう。

 僕は疑問だった。


「まあ、俺は魔法使いだからな。こういうのには一応、耐性があるんだよ」

 また、心を読んだかのように父さんは言った。


 母さんも緊張の面持ちで軍刀サーベルに手をかけ、臨戦態勢をとっていた。


 僕も男だ。

 こんなところで気後れしていたら、陽美をさがしだすことなんてできやしない。

 それに母さんが戦意を失わずにいるのに、僕が怖じ気づくわけにはいかない。

 斬鉄剣の柄をグッと握る。


「ほう、私を見てもまだたっていられるのか」

 その光の天使は言った。


 その言葉をきいただけでもすべてをなげだしたくなったが、僕は歯を食いしばり、なんとか耐えた。


 月彦、気をつけて。

 あの天使は支配の特技スキルをつかっているわ。

 自我をもっていかれないように、意識をしっかりもってね。

 月読姫は言った。


「お、お前はなにものだ?」

 勇気をふりしぼり、僕は訊いた。

 見るだけでも精神がすり減るが、話をすると意識ごともっていかれそうだ。


「しっかりしろ、息子よ」

 そう言い、父さんは僕の肩を抱いた。

 不思議と心が落ち着いた。

 父さんの瞳がうっすらと紫に光っていた。


「ふむ、いいだろう。すぐにニノス王のもとに旅立つのだ」

 そう言うと、その天使はさらに上空に飛んだ。

 その姿はあまりにも神々しく、ルネッサンス期の宗教画を連想させた。

 そうミケランジェロが描いた絵画のようだ。


「我が名は白天使ウリエル。黙示録の四騎士にして神の言葉を預かる者。支配を司る者」

 その天使は言った。


 目の前の天使は黙示録の四騎士と名乗った。

 陽美を見つけるために必要な倒すべき相手だ。

 だが、見ているだけで精神力を奪っていく相手に勝てるのだろうか。


 僕は頭を左右にふった。

 いや、勝たなくてはいけない。

 会いたいのだろう。

 大好きな、可愛らしい陽美に。

 僕は自身の心にいいきかせた。


「ひとつ訊きたい。あんた天野陽美をしっているか」

 僕は訊いた。

 陽美は言っていた。

 陽美を見つけるためには黙示録の四騎士を倒して、四つのアルカナを集めないといけないと。

 なら、奴は陽美の居場所についてなにか知っているかもしれない。


「そうか貴様が十二使徒たちが言っていた七つの大罪人か。どうりで支配の特技スキルがききにくいはずだ。いいだろう、教えてやろう。あの少女は十二使徒の一人でイスカリオテのユダの名を受け継いでいた。この世界を変革したバルトロマイの娘だ。ふふふっ、これは面白い。イスカリオテの造りし力、存分に示すがよい」

 そう言うと、天使ウリエルはさらに天空に向かって飛翔した。


 その光輝く姿は太陽そのものだった。

 天使ウリエルは大きく羽ばたいた。

 その翼から無数の羽が猛スピードで発射された。

 その羽の一つ一つが鋭いナイフのようであった。

 そしてそのナイフのような羽が無数に僕たちの頭上に降り注いだ。


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