第44話 鳴滝流剣闘術

 両脇の林から無数とも思われるゾンビたちが出現した。

 中にはあの豚鬼オークも混じっている。

 緑色の肌をしたみすぼらしい小人もいる。

 あれってもしかするとゲームでよく見かける怪物モンスターか。


 そうよ、あれは緑鬼ゴブリンよ。

 力は弱いけど、狡猾なので気をつけてね。

 月読姫が注意をうながす。


 よく見るとその緑鬼ゴブリンたちは手に錆びたナイフやこん棒などを持っていた。

 ゾンビたちよりも知能があるということか。

 気をつけないとな。


 母さんは早速、軍刀サーベルを抜刀した。

 サーベルが日の光を受け、鈍く反射する。


「やはりこの上になにかいるな。こいつらはその者に会うための試練というわけか」

 無精髭をなでながら、父さんは言った。


 両手を上げ、迫り来るゾンビにすでにQは金属バッドを振り上げ、応戦する。

 フルスイングし、一撃でゾンビの頭を粉砕した。

 Qの体はあきらかに強化されている。

 やはりサキュバスは体液を接種すると強くなるということなのだろう。


「嬢ちゃん、たよりになるね」

 へらへらと笑い、父さんは母さんの黒コートの背後に隠れた。

「すまんな。俺は魔法使いなんでな。肉弾戦は不得意なんだ」

 罰の悪そうな顔で父さんは言った。

 そう言えば、父さんは運動が苦手だったな。

 小学校の運動会なんかで一緒に走ったことがあるけど、かなり遅かった。


「戦いは私たちにまかせて」

 軍刀を体の内側に引き寄せ、母さんは真横一文字に刃を走らせた。

 簡単に緑鬼ゴブリンの首を跳ね飛んだ。

 その死体を飛び越え、もう一体の緑鬼が襲いかかる。


 僕も負けるわけにはいかない。

 両手を三日月で強化し、その緑鬼の頭めがけて斬鉄剣を突き出す。

 緑鬼一体の頭を打ち砕いた。


「なかなかやるな息子よ」

 母さんは言った。

 その言葉の間にも一体のゾンビの首をはねていた。

「でもまだまだ力技ね。力は技を繰り出す一瞬だけでいいの。でないと体力がもたないわよ。相手の動きをよく見て、予測するのよ。敵の機先をとることが勝利の秘訣よ」

 そう言うと、頭上から襲いかかる豚鬼の頭に軍刀を突き刺した。


 さすがは詩音さんね。

 さあ、月彦、あなたのお母さんの動きを模倣コーピーするわよ。

 月読姫が言った。


 え、そんなことができるの。


 ええ、できるわよ。

 月読の能力のひとつなの。

 天野陽美あまのゆみ博士が造ったギフトは伊達じゃないわよ。

 それに詩音さんは月彦のお母さんだから模倣コピーするのにとても相性がいいの。

 私のアイコンをクリックしてみて。


 月読姫の言うとおり、僕はアイコンをクリックした。


 じゃあ、そのまま詩音さんの姿を見てみて。


 僕は母さんの戦う姿をよく観察した。

 瞳がじんわりと熱くなる。

 僕の中に熱いものがながれこんでくる。

 情報の滝だ。

 僕はその情報を乾いたスポンジが水を吸うように吸収した。


 母さんは身を低くして、再び抜刀のかまえをとった。

「よく見ておきなさい。これが私が受け継いだ技よ」

 そう言うと、母さんは石階段を蹴った。

 目にもとまらないとはこのことだ。

 母さんの体は疾風となり、剣は流星となった。

「鳴滝流剣闘術三ツ星!!」

 そう叫ぶと軍刀が三度輝いた。

 豚鬼の頭を瞬時に三回貫き、肉塊にかえてしまった。

 月読の力で僕はその技をの一部始終を見ることができた。

 母さんは一瞬よりも速い時間で三度も突き技を繰り出したのだ。

 母さんは軍刀を一振し、刃についた血肉を振り払った。


 鳴滝流のダウンロードに成功しました。

 夜空月彦は特技スキル鳴滝流を獲得しました。

 月読姫が言う。

 

 僕は体に今まで感じたことのない力が溢れ出すのを覚えた。


 

 

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