第41話 魔法使いの助言
熱い紅茶をずずっと父さんはすすった。
「キンキンに冷えたビールが飲みたいよ」
と言った。
「何いってるのよ、あなたお酒なんて飲めないじゃないの」
ふふっと母さんは微笑んだ。
それは忘れかけていた日常の一コマだった。
「さて、まずは何から話すべきかな」
父さんは無精髭をなでた。
「いっても俺が知っているのは作家仲間から聞いた都市伝説まがいの話だけどな」
うーんと父さんは腕を組み、考え出した。
なら僕が知りたいことを聞いてみよう。
博識の父さんなら何かしっているかっもしれない。
「父さん、十二使徒ってなんなのさ」
僕は訊いた。
「そうだな、まずはそれからだな。十二使徒ってのはこの世界の革新を望む天才たちの集まりさ。天野、俺の親友の
父さんは言った。
なんだそれは。
そんな組織があるのか。
そして、天野凪、陽美のお父さんはその組織のメンバーであの教室であった二人と同じところに属しているというのか。
この世界の状況に陽美と陽美のお父さんはどうかかかわっているんだ。
「さあな、それは俺もよくわからんが、陽美ちゃんもそのメンバーの一人に選ばれていた可能性は十分あるな。陽美ちゃんは天野と同じぐらい天才だったからな」
そう言い、父さんはまたずずっと紅茶をすすった。
母さんがそのマグカップに紅茶を継ぎ足した。
「これは天野の野郎がよく言っていたんだがな、人間ってのは猿から進化したんじゃないんだとさ。アダムとイヴという人間が突如現れて人間の祖になったんだと。それでだ、初めの男性アダムにはイヴの前にリリスという妻がいたっていうんだ。人間の中にはそのリリスの末裔もまじっているんだと。そのリリスの子孫はかなり特殊な遺伝子をもっているんだとさ。リリスの子孫は神や悪魔の因子を受け継ぎやすいということなんだ」
父さんは言った。
その話はかなり難しいものだった。
人間は猿から進化していないなんて、学校の授業でならったこととは真逆じゃないか。
それにリリスという名には聞き覚えがあるな。
たしかQをサキュバスに種族をかえるときにその因子をもっているから、遺伝子を書き換えることができると月読姫は言ってたな。
「人間は神に近づかなくてはいけない」
と父さんが言った。
その言葉は父さんの親友である天野凪がよくいっていた言葉だと言う。
「それ、壱世ちゃんが事故にあったときからよく言うようになったわね」
母さんが言った。
壱世とは陽美のお母さんの名前である。
優しくて、美人なお母さんだ。
母さんの話では壱世さんは陽美が生まれた直後に事故にあい、生死をさまよったのだという。
その事故以来、陽美のお父さんである天野凪は人付き合いはほとんどしなくなった。話相手は親友の父さんぐらいだったという。
そして約二年まえから海外の研究所ではたらくようになり、会うのはめっきり減ってしまった。
「その黙示録の四騎士だけどね、私、心当たりがあるのよ。月彦、八雲神社って覚えているかしら」
母さんが僕の目を見て言った。
その神社の名前は覚えている。
その神社は小学生のころ、毎年行われる夏祭りに陽美とよく一緒に出掛けたところだ。
その夏祭りの露天であのビー玉を買ってあげたんだ。
「私見たのよね。遠くからだけど、そこで光輝く何者かをね。さすがに一人で確認するわけにはいかなくてね、そのまま家に帰ってきたの」
と母さんが言った。
「黙示録の四騎士ってのは聖書では世界の終末に現れるという存在さ。今のこの状況はまさに終末だな」
父さんが付け足した。
「ふーん、その神社にいたのが黙示録の四騎士かもしれないのね」
Qが巨乳の前で腕を組み、言った。
「そうだな、俺もそう思う」
ふふっと笑い、父さんは言った。
「ねえ、月彦。明日、確かめに行きましょうよ。私もあの存在が気になるのよね」
母さんが言った。
「さすがは日露戦争の英雄の血をひくだけのことはあるな。母さんは好奇心旺盛だ」
どこか嬉しげに父さんは言った。
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