第40話 魔法使いの父

 魔法使いってなんだ。

 あのファンタジーものの映画やドラマ、ゲームなんかにでてくるあれか。

 そう言った父さんはどこか人をくった笑いを浮かべている。

 父さんの職業は小説家だ。

 それも結構売れている。

 歴史に独特のファンタジーな設定をもりこんだ物語を得意としている。

 何作か映画やテレビアニメになったりしている。

 でも、父さんも母さんも僕のしらない何かがありそうだ。


「あ、あんたの父さんしってるよ。大正妖術戦記の映画見に行ったよ」

 Qが言った。

 それは父さんの代表作の一つだ。

「ほう、うれしいね」

 にこにこと父さんは答えた。


「ねえ、あなた、ここで立ち話もなんだから、一度家に帰りましょうよ」

 母さんが言った。


「それもそうだな」

 ぽりぽりと頭をかきながら、父さんは言った。

「なあ、あれって天野の家にあったスバル360じゃないか。俺あれに一度乗ってみたかったんだよな。これあれだろ、あいつがカスタムしたやつだろう。天野のやつ頼んでも乗せてくれなかったんだよな」

 父さんはスバル360の丸いボディをなでた。

 じろじろと中をのぞきこむ。

「すげえな。こいつは旧ソビエトが開発したっていう水を動力にして走る車だぜ。天野のやつしっかり実用化してるじゃないか」

 父さんは子供のような顔でうれしそうに言った。


 スバル360は僕たちを乗せて、走り出した。

 小さな車内に四人も乗ってかなり狭かったが、久しぶりに家族に会えたので僕はうれしかった。


 実家の周囲には有刺鉄線がはりめぐらされ、ゾンビたちが容易に侵入できないようになっていた。

 もし、入ってきても母さんが一撃で撃退したとのことだ。

 有刺鉄線をはったのは母さんだった。

 昔取ったきねづかよと母さんは自慢気に言った。


 なつかしのリビングのソファーの僕は座った。

 久しぶりの感触で僕はまた泣きそうになった。

 Qは僕の隣に座る。

 父さんはキッチンから椅子をとってきてそこに座った。

 母さんは紅茶を淹れてくれた。

 缶に入ったクッキーを出してくれた。

 これは父さんがお中元にもらったやつだ。

「せっかくお客さんが来てくれたのに、こんなのしか出せなくてごめんなさいね」

 母さんは料理が得意だ。

 材料さえあればお菓子も自分でつくる。

 いや、でも仕方がないと思うよ。

 この状況では甘いものが食べれるだけでもうれしい。


 今まで普通だと思っていたものが、普通でなくなるのはこんなにも辛いことだったとは。


 Qは美味しそうにぽりぽりとクッキーを食べた。

 やっぱり女子は甘いもんが好きなんだな。


 僕はクッキーを食べながら、今までのことを手短に話した。


 父さんと母さんはそれを黙って聞いた。


「なるほどね。黙示録の四騎士を倒して四つのアルカナを集めろか。これはますます終末ハルマゲドンってな感じだな」

 父さんは無精髭をなでながら、言った。


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