第39話 再会

 母さんは僕に近づくと両手を広げて、ギュッと力強く抱き締めた。

 久しぶりに感じる肉親の暖かさは普段なら気恥ずかしいものだったが、このような状況ではうれしくてしかたがなかった。


「しばらく見ない間に男の顔になったじゃないか」

 母さんは言った。

「母さん、良かったよ、本当に良かったよ」

 流れ出す涙を止めることができなかった。

 なぜだか、Qも泣いていた。

「良かったじゃない」

 とQは言った。


 生きていてくれたことはうれしいが、気になるのは母さんのけた外れた戦闘力だ。

 あの手強いと思われた人食いグールを一刀のもとに切り伏せた。

 もとなんとかという組織にいたとかいっていたが、そんな話は今まで聞いたことはない。

 母さんの過去になにがあったのだろうか。

 肉親でも知らないことがあるのだ。


黒桜こくおうってのはかつての帝国陸軍の創設と同時期に発足された組織でその役目は皇族や高級貴族たちを霊的障害から守護するためにつくられたんだ。その組織の性格上妖魔や悪魔なんかが引き起こすいわゆるオカルト事件を扱うようになったんだよ。二十一世紀の現代も表にはでないが、そういった事件を解決してきた組織さ。母さんはその黒桜の凄腕エージェントだったんだよ」

 僕の耳元で聞いたことのある声がした。

 なぜだか、突如ていねいに説明してくれた声の方を見た。

 無精髭を生やした、よれよれのスーツを着た中年男性が立っていた。

 腕をのばし、僕の肩を抱いた。


 え、父さん。

 だらしなく無精髭を生やしているが、父さんに間違いなかった。

 いったい、いつのまに現れたんだ。

 父さんも生きていてくれたのはうれしいが、突然の登場に僕は混乱を余儀なくされた。


「と、父さん……」

 僕は言った。


「よう、家出息子よ。無事でなによりだ」

 ははっと父さんは乾いた笑い声をあげた。

 そのひょうひょうとした姿は父さんに間違いない。


 僕は図らずも両親と再会することができた。


「父さん、母さん、生きてて良かったよ」

 僕は再び泣いた。

 Qも泣いていた。


 ちらりと父さんはQの様子を見る。

「俺の名前は夜空月影よぞらつきかげ。まあ、こいつの父親だ。お嬢ちゃん、うちの息子と一緒にいてくれてありがとうな。見た感じ、人間ばなれしてるようだけど、うちのがしたことなら許してくれよ」

 父さんは言った。


 次に父さんは僕を見た。

 一瞬だがその瞳が紫色に輝いたような気がした。


「なるほどな。堕天使の七つの大罪か。またえらいものを体にいれたな。だが、そいつのおかげで生き残れたのか」

 なにか意味深なことを父さんはぶつぶつと言った。

「おい、息子よ。その能力どこで手に入れた」

 父さんは訊いた。

「誰って。そう、陽美にもらったんだ。陽美はこの力で探しだしてほしいって」

 僕は答えた。

「そうか、陽美ちゃんは一緒にはいないのか。やっぱり天野家が一枚かんでると考えていいな。十二使徒に選ばれたってのは本当だったんだな」

 父さんは一人納得して、うんうんと頷いていた。

 やはり父さんは知っている。

 あの十二使徒というのを。

 豚鬼たちがいた教室にあらわれた二人が言っていた十二使徒というのを。

「父さん、何かしっているの?」

 僕は訊いた。


 今の父さんの口ぶりからして、このゾンビだらけになった世界に対してなんらかの情報をもっているようだ。


「うん、そうだな。はっきりとした答えは流石にわからないが、推測できる事象はいくつかあるな。なんせ俺は魔法使いだからな」

 父さんは言った。

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