第38話 弓張り月

 グールは倒したものの、奴が呼んだゾンビたちはまだかなり残っていた。

 統率がとれていない烏合の衆であったが、その数はやはり馬鹿にできない。

 油断はできないぞ。


 ねえ、月彦、ちょうどいいわ、新しく使えるようになったギフトを使ってみましょう。

 月読姫は言った。


 そうだ、新しいギフトが追加されていたな。

 弓張り月といったな。

 視界に目一杯弦がひかれた弓のアイコンをが浮かんだ。

 

 弓張り月の能力は簡単にいうとね、任意の物質を遠隔操作できるのよ。


 なるほど、ということはある物質を敵にぶつけて攻撃したりできるな。

 要は狙撃能力ということか。

 僕は弓張り月のアイコンをクリックした。


 僕はさらに目を三日月で強化する。

 動体視力を高める。

 さて、何を使おうか。

 そうだ、陽美の部屋でみつけたビー玉を使おう。

 僕は色とりどりのビー玉のうち三つを取り出した。

 それに意識を集中させる。

 ビー玉はふわりと浮いた。

 さらに意識を集中させ、それぞれのビー玉を加速させた。

 一番ちかくのゾンビ数体の頭めがけて打ち出す。

 ビー玉は瞬時に弾丸なみのスピードに加速され、ゾンビたちの頭を撃ち抜いた。

 ゾンビの頭から真っ黒な血が流れ、後ろに倒れた。

 頭を破壊されたゾンビは動かなくなった。

 そして、ビー玉はまた僕の目の前に戻ってきた。


 なるほど、こいつは便利だ。


 数多い敵を相手にするにはこのギフトは最適だろう。

 僕は弓張り月のギフトを使い、ゾンビの頭を打ち砕いていく。

 その間にも母さんは軍刀サーベルでゾンビの首をはね、Qが金属バッドでゾンビの頭を粉々にする。


 どうにか僕たちは戦闘に勝利した。

 これはかなり疲れたな。

 一体一体はたいしたことないが、これだけの数を相手にするのは骨が折れる。

 僕は周囲を見渡した。

 まさに死山血河だ。

 かわいそうだが、仕方がない。


 僕は母さんのもとに駆け寄る。


「生きていてくれて良かった」

 自然に瞳に涙が浮かぶ。

 良かった。

 本当に良かった。

 でもこの母さんの溢れるばかりの戦闘力はどういったことだろうか。


「いやあ、あんたのお母さんめちゃくちゃ強いじゃない」

 Qは血だらけの金属バッドを肩にかつぎながら、言った。


「このお姉さんは月彦の友達かい」

 母さんは訊いた。

「うん、まあ、そんなところだよ」

 Qは答えた。

 よかった、私はサキュバスの奴隷ですなんて言わずに。

 さすがに母さんになんて説明していいか分からない。


「初めまして、私は月彦の母親で元妖魔迎撃特務機関黒桜こくおう夜空詩音よぞらしおんさ。今はただの主婦だけどね」

 母さんは聞いたこともない組織の名前を言った。


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