第37話 黒いコートの剣士

 銀色に輝く軍刀サーベルを片手に母さんは僕ににこやかに笑いかけた。

「か、母さん」

 見たこともない母さんの姿に僕は呆然自失としていた。

 

 黒いコートに身を包んだ母さんは軍刀を鞘に戻した。

 チャキンという金属音が響いた。


 僕は母さんのもとに駆け寄る。


 日本人形のような整った顔立ち、すらりとした長身は母さんの特徴だった。

 もう四十代だというのにちょっと化け物めいた若々しさはかなり反則的だとおもう。

 よく僕のお姉さんですかと間違えられ気分をよくする母さんだ。

 ただいくら美魔女的な若さをもつ母さんだったが、このような戦闘的な姿は初めて見る。

 いたって普通の主婦だったはずなのに。


「ど、どうして……」

 僕は疑問であった。

 なぜ、母さんが軍刀サーベルなんて持って、こんなところにいるんだ。

 生きていてくれたのはうれしいが、どうして?


「話は後よ、まずはこいつらを片付けましょう」

 母さんは言った。


 そうだ、まだ戦闘は続いている。

 まずはこの場を切り抜けることが先決だ。


 人食いグールはまだ動いている。


 体を真っ二つにされたとはいえ、奴は完全に死んではいないようだ。

 いや、一度死んでいるから死にきってきないというのが正確なところか。


 人食いは引き離された下半身を一瞬でつなぎなおすと、奴は立ち上がった。

 ゾンビたちも集結しだした。

 人食いが復活したことにより、ゾンビたちは彼の支配下に戻ったようだ。


「あ、あの人、あんたのお母さんなの」

 Qは訊いた。

 その隙にも金属バッドをふるい、ゾンビの一体の頭を破壊した。

「そうだよ。でも、あんな姿みたことないや」

 僕はそう言い、ゾンビ一体の頭を斬鉄剣で粉砕した。

 どうやらゾンビぐらいなら、Qだけでも余裕で対処できるな。

 頼れる仲魔だ。


「あんた邪魔だな。でもあんたも女だからそのおっぱいがでかい女の次に食べてやるよ」

 人食いグールは下品な笑みを浮かべて言った。


 ヒュッと風が切れる音がした。

 奴が視界から消えた。

 どうやらギフトである瞬足をつかったようだ。

 やはり素早い。

 三日月で強化した視力でも奴の姿をおうだけで精一杯だった。

 目にもとまらぬとはこのことだ。

 人食いはすでに母さんの目前までせまっていた。

 今、まさに掴みかかろうとしていた。


 だが、母さんは平然としている。

 軍刀サーベルに手をかけると抜刀し、一直線に振り下ろされた。

 その軍刀の動きは人食いよりもさらに速い。

 まさに電光石火だ。

 母さんの軍刀は人食いの脳天から股間までを綺麗に二分した。

 人食いは驚愕の表情のまま、左右に別れた。


「お、おまえは何者だ……」

 瞬殺されている人食いが言った。

「なに、ただの主婦だ」

 軍刀についた血をはらうと、母さんは人食いの顔をスニーカーの靴底で踏みつけた。


 容赦ないな。


 断末魔の悲鳴をあげることなく、あっけなく人食いは動かなくなった。

「さて、残敵掃討といこうか」

 母さんはそう言うと、残りのゾンビたちに斬りかかる。


 グールは倒したものの奴が呼んだゾンビたちはまだかなり残っていた。


 僕とQもそのゾンビの集団にむかって突撃を開始した。

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