第36話 一陣の風
この敵は強い。
僕は思った。
知性もあり、耐久力もあり、しかも素早さの能力が高い。
ほかのゾンビたちとはけた違いだ。
「俺はその女の子をたべたいんであって、戦いたいんじゃないんだよな……」
そういうと首を左右にふり、コキコキとならした。
両手でわっかをつくり、口にあてた。
ちょうど山で山びこを呼ぶ体勢にちかい。
あのヤッホーというものだ。
「ウワアアアアッッ!!」
耳がいたくなるほどの叫び声だった。
なんだ、やつは何を始めたんだ。
これはまずいわ。
あいつ指揮のギフトをつかったわ。
月読姫が言った。
指揮ってなんだ。
そういえば
僕は訊いた。
文字通りの他者を指揮する能力ね。
奴の場合、自分よりも弱いアンデッドを操る能力よ。
月読姫が言った。
そ、それってまずくないか。
僕はいやな予感がした。
「ちょ、ちょっと、あんたあれをみてえ」
Qは前方を指差した。
その指先の向こうから、わらわらとゾンビたちが集まってきた。
視界のマップを見ると後方からもかなりの数のゾンビが集まってきた。
ざっと見ただけで、前方約三十、後方約三十、合計六十体ちかくのゾンビが集まってきた。
僕たちは瞬時に包囲された。
なんてことだ。
あの
ゾンビの一体がQに襲いかかる。
その伸びきった爪できりさこうというのだ。
「こんちくしょう!!」
Qは金属バッドをフルスイングし、ゾンビの頭を粉砕した。
その間に僕は斬鉄剣でゾンビ一体の頭を切り跳ねた。
だが次から次へとゾンビたちが襲いかかる。
ゾンビだけならなんとかなりそうだが、もう一体やっかいなのがいる。
落下スピードも加わり、かなりの速さだ。
僕はQを助けるために駆け出した。
だが、ゾンビたちが壁となって僕の目の前に立ちはだかる。
右足を三日月で強化し、ゾンビの一体を蹴り飛ばした。
壁にできた穴がまた別のゾンビで塞がる。
くそ、邪魔だな。
僕がゾンビの相手に手間取っている間に
ゾンビたちが邪魔でQのところに助けにいきたいのに間に合わない。
その時、ひゅんと風が鳴いた。
一陣の疾風が舞った。
それは黒い風だった。
その風は人の姿に変化した。
その人物は左手に
サーベルが日の光を受け、銀色に輝いた。
次の瞬間、
「元気そうだな、息子よ」
その声は女性だった。
その女性は言った。
その声の持ち主は僕の母さんのものだった。
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