第35話 グールとの死闘

 スバル360の行く手をその男は両手を広げて防いでいた。

 にやにやと人を見下した笑みをその男は浮かべていた。

 その男の顔は縫い後だらけで不気味だった。


 僕は左手のひらの月読姫をその男にむけ、素質ステータスを読み取った。


 種族人食いグール

 素質スキル指揮、瞬足。

 体力と素早さがかなり高い。知力もそれなりにあった。

 

 あいつは人食いグールね。

 この前の豚鬼オークと同じ中級アンデッドだけど人間の部分が残っていて、かなり知能が高いわよ。

 気をつけてね。

 月読姫は言った。

 たしかに不気味な姿ではあるが、見た目はかなり人間に近い。


 僕は警戒しながら、スバル360の外に出た。

 Qも外に出て、金属バッドを肩にかつぎ、僕の横に立った。


「あはははっ、女の子だ!!柔らかそうだな」

 だらりとよだれを垂らしながら、人食いは言った。


「なあ、あんた。邪魔だからどいてくれないかな」

 僕は言った。

 話の通じる相手だとは思えないが。

 たぶん、戦いは避けては通れないだろう。

 木刀の切っ先をその男にむける。


「やだね。俺はその女の子が食べたいんだよ。たっぷりと犯したあとにじっくりと味わって食べてやるよ。お前はかたそうだから、殺すだけだ」

 人食いはいやらしい、暗い目を僕にむけて言った。


「誰があんたなんかに食われるものですか!!」

 手に持った金属バッドを大きく振りかぶり、人食いの脳天めがけて振り下ろす。

 Qはサキュバスになったことにより、かなり肉体が強化されているようだ。

 重い金属バッドを軽々と振り下ろしていた。


 ドスンという鈍い音がした。


 金属バッドの先端がアスファルトの地面にめりこんでいた。


「危ないな、あたったら怪我するじゃないか」

 人食いは軽やかな身のこなしでQの必殺の一撃をかわした。


 こいつ、かなり素早いぞ。


 瞬時に奴はQの背後に回り込む。

 あまりの速さにQは回り込まれたことにすら、気づいていない。

 両手でQの白い首をつかんだ。

 首をしめる体勢をとっている。

「あははっ柔らかいよ」

 うれしそうに人食いは言った。


 させるか!!


 僕は両足を三日月で強化し、ダッシュした。

 同時に木刀を斬鉄剣をイメージし、強化する。

 今まさにQの首をしめおとそうとしている人食いめがけて突き技を繰り出す。

 あの豚鬼のように頭を粉砕してやる。

 僕は渾身の力で斬鉄剣を突きだす。

 風と空を斬鉄剣が切り裂く。


 だが、頭を打ち砕くことはできなかった。

 くそ、なんて勘のいい奴だ。

 しかもなんだこの身体能力は。

 人食いはあろうことか、上半身だけを左にひねり僕の攻撃をかわした。

 どんな関節をしているんだ。

 しかし、僕の斬鉄剣はやつの頭は砕けないものの、左腕を切り裂いた。

 ぼとりと左腕が地面に落ちる。

 赤黒いくさった血液が地面を濡らした。


 ちっと舌打ちして、僕はQのウエストを抱き抱えると後方に飛び退いた。


「あああ痛いじゃないか」

 人食いはそう言うと、無造作に腕を拾うと千切れた断面につなげた。

 傷口はあっというまにふさがり、元通りになった。


 どうやらそれほどダメージを与えていないようだ。

 やはり、あの首を落とさない限り、やつは倒せないのだろう。


「あ、ありがとう」

 Qは礼を言った。

「いいよ、でもあいつはゾンビたちとは違い、かなり手強いな」

 僕は言った。

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