第34話 スバル360
涙目で立ち上がり、Qはホットパンツのポケットから一つの車の鍵を取り出した。
それは車の鍵だった。
「へへ、私、車運転できるんだよ」
とQは言った。
車の鍵についたキーホルダーを指にはめ、くるくると回してみせた。
ということはQは十八才なのか。
僕よりも一つ上なのか。
「そういえば、Qって何歳なの?」
僕は訊いた。
「うん、私、十九歳だよ」
え、二つも上なのか。
「え、そうなの。二つ上なのか」
「そうみたいね」
「でも初めてあったとき、制服を着てたよね」
「あ、あれね。着替えがあれしかなくてね」
Qは巨乳の上で手を組んでいった。
「私はもとは大学生だったんだ。夏休みで実家のあるこの街に帰ってきたらこうなっちゃったんだよ」
そうか、Qは大学生だったのか。
幼い風貌だけど年上だったんだな。
まあ、だからといって今さらQさんとは呼ばないけどね。
奴隷契約したんだから、年上とか関係ないか。
僕たちは陽美の家のガレージに向かった。
そこにはかなり年代ものの車が止まっていた。
ちいさくて可愛らしいフォルムの車だ。
クリーム色の車体が可愛いらしい。
どっかで見たことあるんだけどな。
「これってスバル360じゃない」
Qが言った。
「昔の映画で見たことあるよ」
「そうだ、スバル360だよ」
僕は相づちを打つ。
Qは手に持っていた鍵で車のドアを開けた。
興味津々に中を覗く。
僕もQの背中越しにその中を見た。
おっこれは凄い。
思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「凄いよ、この車。外はクラシックなのに中は最新式に改造されてるよ」
Qも感嘆の声をあげた。
たしかに外見は僕が生まれるよりもずっと前にデザインされたものだが、中身は最新のデジタル機器が満載だった。
僕たちはそのスバル360の後部座席に荷物を積み込んだ。
ハンドルを握るのはもちろんQだ。
シートベルトが巨乳に食い込み苦しそうだった。
「さて、どこから行く?」
Qは訊いた。
「そうだね、まずは僕の実家にいってもらっていいかな。父さん、母さん、無事にいてくれたらいいんだけど」
僕は言った。
「両親か……。そうだね、無事だといいね」
うん、とQは頷き、言った。
こんなゾンビが徘徊する世界になって両親が生き残っている可能性はかなり低いと思う。
でもかすかな希望は捨てたくない。
「OK、じゃあ
Qはそう言い、アクセルを踏んだ。
スバル360はアスファルトの道を走っていく。
道路を走っているのは僕たちだけだ。
道路に放置された車たちを器用によけながら、Qは車を走らせた。
信号やスピードを守らなくていいのはかなり快適だ。
陽美の家から僕の実家まで車で三十分といったところだ。
この調子でいけばそれよりも速くつくだろう。
だが、快適なドライブは唐突に終わる。
くそ、もうすぐだというのに。
視界のマップに大きめな赤色が点滅しだした。
それはものすごいスピードでこちらにやって来る。
月彦、気をつけて、かなり強いアンデッド反応よ。
慌てて、月読姫が忠告する。
僕はその点滅のほうを見た。
おかしい、何もいない。
僕は視力を三日月で強化する。
見えた。
そいつは空中にいた。
何者かが飛来する。
「Q、車を止めて」
僕は急いで言った。
そいつは目の前までせまっている。
「わ、わかったわ」
驚きながら、Qはブレーキを踏んだ。
Qも何かを感じ取っているようだ。
かなり警戒している。
シートベルトがさらに巨乳にぐっと食い込む。
「あはははっっ。久しぶりに生きた人間をみつけたぞ。しかも美味しそうな女の子もいるぞ」
どすんとそいつはスバル360の前に着地した。
うれしそうにこちらを見ている。
そいつは白いシャツにデニムという姿だった。
ザザザッ。
ザザザッ。
ザザザッ。
こんな時にまたあのノイズが頭に響く。
七つのギフトの一つ、弓張り月が使用可能になりました。
と月読姫が脳内で言った。
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