第32話  陽美からの手紙

 翌朝、お腹が空いた僕たちは長期保存のきくパンと缶詰、Qがみつけた羊羮を朝食に食べることにした。

 羊羮はお中元かなにかだったのだろう、けっこう立派な箱に入っていた。

 こういうものを残しておいてくれた陽美のお母さんには感謝しかない。


「私甘いの大好きなんだ」

 羊羮を口にほうばりながら、Qは言った。

 羊羮は素晴らしい。

 甘い上に日持ちが良い。

 最高の栄養食で保存食だ。

「これさ、食器棚に貼り付けられてたんだけど」

 Qはそう言うとUSBメモリをテーブルの上に置いた。


 これはいったいなんだろう。

 隠すように置いていたということは何か重要なものだろうか。


 僕たちは陽美の部屋に行き、電源の点くパソコンを探しだした。 

 USBメモリの中には一本の動画ファイルがあった。

 僕はそれをクリックし、再生させる。


 モニターには白衣を着た陽美が映し出された。

 白い手をのばし、画面を調整している。


「え、なに。この人めっちゃ可愛いんだけど」

 Qは口を手でおおいながら、言った。

 そうだろう、僕の幼馴染みはものすごく可愛いんだから。

 久しぶりに見た陽美の顔は国宝級の可愛らしさであった。


 動画は続き、陽美は画面にむかって語りかける。



 この動画を見てるってことは終末のラッパが吹かれたということね。

 街にタナトス眠りヒュプノスのウイルスがばらまかれたということね。

 恐らく、街中にゾンビが徘徊している世界になっているということね。

 ほとんどの人たちはこのウイルスに耐えきれずにゾンビになっていると思うわ。

 耐えきれた人たちもその多くは怪物クリーチャーになっていることでしょう。

 ごめんね、月彦。

 こんな世界に一人で何も説明せずに放り出してしまって。

 私にできるのは知恵の実七つのギフトを作成して、飲ませることだった。

 これがばれたら私はきっと楽園エデン捜索の実験台にされるでしょう。

 私が造った大罪のプログラムならば、この世界を生き抜くことは容易でしょう。

 月彦、あなたは運良く、スサノオの因子をもっていたのよ。

 だからきっと大罪のプログラムがうまく働くはずだわ。

 あなたが特殊な遺伝子をもっていてくれて本当によかったわ。

 月彦、お願いがあるの。

 終末のラッパが吹かれた後の世界、すなわち人類の進化に失敗して怪物クリーチャーとなった人たちが徘徊する世界、その中から黙示録の四騎士を見つけ出してほしいの。

 彼らがもつ四つのアルカナを回収してほしいの。

 その四つのアルカナが楽園エデンに行くための通行料なの。

 ゆるせないけど、十二使徒のほとんどはこの状況を巨大な実験として楽しんでいるの。

 この状況は彼らが楽しむために造りだしたものよ。

 黙示録の四騎士はとても強くて、七つのギフトでも勝てるかどうか正直私にも分からないわ。

 でも、見つけ出して、勝ってほしい。

 お願い、月彦、私をもとの世界に戻して。

 月彦のいるこの世界に戻して。

 また、あなたに会いたい。

 あなたと過ごした日々は私にとって何物にもかえられない宝物だった。

 だから、お願いよ。

 最後に、大好きよ、月彦。

 世界で一番大好きよ……。


 そこで動画は終わった。

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