第22話 怪物たちとの戦い

 豚鬼オークの拳から離れ、僕は後方に飛び退いた。

 木刀を正面にかまえ、警戒する。

 豚鬼こと田沼は傷ついた腕にぐっと力を入れると赤黒い傷口はあっという間にふさがった。

 さすがの耐性の高さといえた。

 見た限り、あまりダメージをあたえていないようだ。


 マットに寝転がっていた陽子さんが立ち上がり、田沼の横に立った。

 田沼が流し込んだ精液がまだべっとりと股間にこびりついたままだ。


 僕の顔をみると葉子さんはにやりと笑った。

 優しそうなあの笑顔ではなく、葉子さんも下品極まりない風貌になっていった。

 顔がみるみる変化していく。

 目はつり上がり、口は大きく裂け、耳は膨れ上がりべろりと下に垂れ下がった。

 彼女も豚の顔を持つ人間になってしまった。


 月読の能力を使い、葉子さんの素質ステータスを読み取る。

 彼女の種族も豚鬼オークになっていた。

 田沼ほどではないが、体力と耐性はかなりあった。


 合計三体の怪物ミュータントを相手にしなければいけないのか。

 こいつは骨が折れそうだ。

 だが、こんなところで弱音を吐いている場合ではない。


 僕にはある作戦が頭の中に浮かんでいた。

 これがうまくいけばこの戦いはかなり有利にすすめられる。


 きっと上手くいくわよ。

 しかし月彦の適応力には感心するわ、

 いや、天野陽美博士の設計デザイン力もあるんだけどね。 

 とりあえず、あの中級アンデッドをやっつけてしまいましょう。

 月読姫は言った。


 僕は視界左下に浮かぶ新月のアイコンに意識を集中させた。

 カチッとクリック音がする。

 続けて三日月をクリックし、両足を強化した。


 田沼と葉子、すなわちオス豚鬼とメス豚鬼は急に周囲をきょろきょろとしだした。


 そう、彼らは新月のギフトを使った僕の姿を完全にみうしなったのだ。

 ギフトの同時発動はうまくいった。

 どうやらギフト能力は一つ一つ使う必要はないようだ。


 僕は床を蹴り、ダッシュする。

 瞬時にメス豚鬼まで肉薄するとそのだらしなく開いた口もとに木刀の切っ先を突きつけた。

 もちろん木刀も斬鉄剣をイメージし強化する。

 豆腐を切るよりも簡単に木刀は突き刺さり、喉の奥まで突き抜けた。

 後方に赤い血が飛び散り、その元葉子さんは後ろに倒れた。

 ゲホゲホと血を吐いた後、彼女は完全に動かなくなった。


 その様子を見た田沼ことオス豚鬼はでたらめに腕を振り回した。

 かなりの狂暴極まりない攻撃だった。

 もし当たれば一たまりもないだろう。

 見えない僕にむかって、数打てば当たる作戦なのだろう。

 だが、こんな当てずっぽうの攻撃に当たる僕ではない。


 僕は新月のギフトを発動させたまま、豚鬼の背後に音もなく近づいた。

 背後にまわった僕は両足を強化し、ジャンプした。

 豚鬼の両肩に飛び乗り、僕は頭上に木刀を振り上げた。


 一瞬、新月の能力をとく。


 豚鬼は驚愕の表情で僕を見ていた。


「さらばだ」

 僕は言うと豚鬼の脳天にむけて木刀を突きつけた。

 頭は完全に粉砕された。

 頭の中にはゾンビたちのものよりも一際大きいクリスタルがむき出しになった。


 僕はそれを掴みとる。


 豚男田沼は無様に前方に倒れる。


「なんなの……あんたは。どうしてこんなにあっさりと田沼さんたちを……人間を……」

 震えながら、美咲は瞬時に豚鬼二匹を倒した僕を見ていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る