第21話 さらなる誘惑

 僕は自身の左手のひらを見た。

 手のひらには陽美によく似た顔が浮かんでいる。

 陽美によく似ているが、これは七つのギフトの一つ月読こと月読姫だ。

「なるほどね、あの者たちはクリスタル、賢者の石を接種したのね。簡単にいうとね、クリスタルは生物の遺伝子を書き換える素材なの。でもね、天野陽美博士は目の前の怪物たちみたいにならないように設計プログラムしたの。だからこれだけは安心して、月彦はあいつらみたいな怪物には決してならないわ。あなたの大好きな幼馴染みを信用して」

 それは懇願にも似た月読姫の説明だった。


 僕は幼馴染みのことを信用することにした。

 彼女と過ごした数年間は僕にとってなによりも大事な時間であった。

 その緩やかな時間こそが彼女を信用する材料だ。


「ねえ、あなたたち、私たちの仲間にならない。そうすればずっと気持ちいいことして暮らしていけるのよ」

 美咲たちはさらに僕たちを誘惑する。


 返答は決まっている。


「くそくらえだ!!」

 僕は断った。

 誰があんな奴らの仲なるものか。

 僕にはやるべきことがあるんだ。

 こんなところで留まるわけにはいかない。


「そう、残念だわ。ならあなたちをゾンビに変えるまでよ。あの宝石の材料にしてあげるわ」

 美咲はそう言うと、蝶の羽を広げて、後ろにい飛んでいった。


 代わりに前に出たのは豚男こと田沼であった。

「久美、今度こそお前を犯しつくしてやるぜ」

 汚れた欲望に目を輝かせて、田沼はこちらを見ている。


「教室の外で待っていてくれないか」

 僕は夢野久美に言った。

「うん、わかったわ」

 そう言い、夢野久美は駆け足で教室の外に出た。


 僕は左手のひらの月読姫を目の前の豚男にむけた。

 月読の能力で相手の素質ステータスを解析した。


 種族は豚鬼オーク

 体力と耐性のグラフはかなり高い。だが素早さと知力は低い。

 それにしてもオークか。

 それで性欲が強いのも納得できるな。ゲームとかでもそんな役回りだ。


 豚鬼オークは拳を大きく振り上げると僕に殴りかかってきた。

 両足を三日月で強化し、空中に避ける。

 その拳は空気だけを裂き、床に突き刺さった。

 すさまじい攻撃力だ。

 あたったら一たまりもないだろう。

 当たればであるが。


 僕はその床に突き刺さった拳に着地すると木刀を強化し、豚鬼の腕に斬りつけた。

 豚鬼は腕から鮮血を長し、醜い悲鳴をあげた。

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