第20話 ギフト能力者

 妖艶な笑みを浮かべながら、美咲は僕の顔を見ていた。

 その怪しさはとても中学生とは思えない。

 ふわりふわりと背中の羽をはばたかせ、宙に浮いていた。

「あれ、おかしいわね、あなた私のギフトがきかないのかしら……」

 怪訝な表情をその少女は浮かべていた。


 ギフトだって?


 まさか僕の他にギフトの能力が使えるものがいるのか。

 疑問が頭の中をかけめぐる。


 心配しないで、あの妖精ピクシーのギフトなんて天野陽美あまのゆみ博士が開発したものに比べたら子供のおもちゃに等しいわ。

 月読姫が自慢気に言う。

 しかしこうも早くギフト能力者に出会うなんて予想外ね。もしかしたら、誰か入れ知恵した者がいるかもしれないわね。


 何がおきるか予想不能の世界というわけか。

 しかし陽美がくれたギフトは七つだったはず。

 月読、新月、三日月とまだ三つしか発動していない。

 あと、四つはなんだろうか。

 それらが発動すればどうなるのか。

 見当もつかないが、今はこの場面を切り抜ければいけない。


 夢野久美はなおも虚ろな瞳で前進しようとする。


 月彦、三つじゃないわ。

 すでにもう一つが発動してるじゃない。


 そうだ、頭の中に例のノイズが流れていたはずだ。

 名前を月桂樹っていったっけ。


 視界のアイコン列をスライドさせると月桂樹の王冠のデザインされたアイコンが浮かんだ。


 時間がおしいから、簡単に説明すると月桂樹は回復系の能力よ。

 月読姫は言った。


 よし、早速つかってみよう。

 うまくいけば夢野久美の催眠状態をとくことができるかもしれない。


 僕は月桂樹のアイコンをクリックする。

 カチッという音がして、能力が発動する。

 左手にじんわりと光りがあふれる。

 どうやらこれが治癒の光りのようだ。

  

 その光りを夢野久美にかざす。


「はっ」

 夢野久美は小さく言い、意識を取り戻した。

「どうして私はここに……」

 どうやら短時間だが夢野久美は記憶を失っていたようだ。

「あの美咲という少女に君は操られていたんだよ」

 僕は言った。

「え、美咲……何、その姿?」

 美咲の奇怪きわまりない姿を見て、夢野久美はごくりと息をのみこんだ。


「久美ちゃん、私たちは手に入れたのよ。この絶望の世界で生き抜く術をね。田沼さんがある人から教えてもらったのよ。ゾンビの頭にある小さな水晶を飲み込めば、人以上の存在になれるってね」

 そう言うとまたあの妖艶な笑みを浮かべた。


 彼女の言葉には聞き捨てられない言葉が含まれている。

 水晶ってのはクリスタルのことだろう。

 それを食べたって言っていた。

 あのクリスタルを接種するとあんな怪物ミュータントに変化してしまうのか。

 こんな恐ろしいことってあるだろうか。

 もうこの世界は人間の世界でなくなっているということなのだろうか。

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