第19話 ステータス解析

 一刻も速くこのおぞましい光景が繰り広げられるこの場から立ち去りたかったが、そうはいかなくなった。

 教室のドアからふらふらとした足取りで夢野久美が教室の中に入っていったからだ。

 恍惚とした表情を浮かべて、虚ろな目をしている葉子のそばに彼女は歩みを進めていた。

 おかしいぞ、夢野久美の様子が明らかにおかしい。

 何かに操られているように見える。


 教室の中に夢野久美を手招きする人物がいる。

 素っ裸の美咲という少女が手招きしている。

 彼女は白い手で夢野久美を呼んでいる。


「さあ、久美ちゃん。あなたもこっちに来なさい。こっちに来て気持ちいいことしましょうよ……」

 美咲は言った。


 うん、彼女の姿もなんだかおかしいぞ。


 僕は暗い教室を目をこらしてじっと見つめた。


 私が一緒に見てあげるわ。

 それなら相手の素質ステータスを解析することができるわ。

 さあ、左手の私をかざしてみて。

 月読姫は言った。


 僕は月読姫の言う通り、左手のひらを美咲にかざした。


 美咲の背中には蝶の羽が生えていた。

 その蝶の羽はゆっくりと羽ばたき、きらきらと光る燐粉を撒き散らしていた。

 視界の美咲の右横にいくつかの言葉と六角形のグラフが浮かんだ。

 六角形は頂点から角ごとに時計まわりに体力、耐性、素早さ、知力、熟練度、魔力とかかれていた。

 さらに種族妖精ピクシー

 特技スキル飛行、魅了。

 と書かれている。

 グラフを読み解くと素早さと魔力はかなり高いが、体力と耐性はほぼなかった。


 なるほど、月読にはこんな使いかたもあるのか。

 僕は実戦をつむことによって知恵の実七つのギフトを使いこなせるようになるのだろう。

 それにはまず生き残らなくてはいけない。


 僕は勢いよくドアを開けると美咲と夢野久美の間に割って入った。

 右手で夢野久美の体を制する。

「ダメだ、これ以上進んではいけない」

 僕は言った。

 なおも彼女は前進しようとする。

 僕は右手を三日月で強化し、夢野久美の体を完全に抑えた。


「あら、いけないわね。いけない子ね」

 美咲は僕の姿を認めるとそう言った。

 真っ赤な瞳で僕を見つめた。

「さあ、あなたも虜になりなさい」

 妖艶な笑みを浮かべて、美咲は言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る