第16話 微笑む男
にこやかに男は笑っていた。
田沼と名乗るその男は体格がよく、いかにもスポーツマンといった風貌だった。
実際ジムのインストラクターをしているということだった。
なんか苦手だな。
握手されながら、僕は思った。
それは第六感のようなもので論理的な説明はできない。
僕は彼のような自信満々の男が苦手だった。
それは生来のネガティブ思考だと思うが、どうもこの男は好きになれなかった。
田沼は少数ではあるがこのグループのリーダーだと言った。
本当はもう少し人数がいたのだが、ここまで来る途中に死んでしまったか、ゾンビになってしまったのだという。
彼の話では、ゾンビに噛まれたりして傷をおったものは遅くても数日後にはゾンビになってしまうのだという。
それまでの間は人間とかわりないので、見つけるのがかなり困難だと言っていた。
グラウンドを這いずりまわっていたあの実花という少女もあわれにもそうなったのだという。
のこり二人の内、三十台前半ぐらいの女性は葉子と名乗った。
若干顔に疲労の色がみてとれるものの、優しそうなお姉さんといった感じだ。
顔立ちはどちらかといえば地味だったが、胸とお尻の肉つきがとてもよく、グラマーなスタイルをしていた。
シャツの襟元から見える胸の谷間に浮かぶ汗が魅力的だった。
もう一人は僕よりも若く、十四歳、中学三年生ということだった。
そばかすがあどけない、ツインテールがよく似合う可愛らしい少女だった。
身長は小柄で百五十センチ少しだろう。
子猫のように愛したい可愛らしさだ。
ツインテールの美少女は名前を美咲と名乗った。
「よく久美さんをここまで送ってくれたね」
と田沼は言った。
「いえ、当然のことですよ」
僕は答えた。
通路ひとつだけで繋がっている教室の中で僕たちは夕食をとった。
外との繋がりはその廊下一本だけなので、そこに田沼たちはテーブルや椅子をワイヤーで繋げ、バリケードを作ってゾンビの侵入を防いでいた。
夜の間は田沼が徹夜でそこを見張るのだという。
その廊下さえ防げればゾンビたちの襲来を防ぐことができるので、立てこもるのは容易だった。
問題はやはり食料ということだ。
定期的に外に調達にいかなくてはいけず、何人かの仲間は外にいったきり帰ってこなくなったのだという。
美咲はそばかすの残る顔に笑顔を浮かべ、夢野久美の帰りを本当に喜んでいた。
「で、君もここにのこるのかい?」
真剣な眼差しで田沼は訊いた。
「いえ、僕は明日の朝には出ようと思います。僕は探さなくてはいけない人がいるので……」
「そうか……」
田沼はどこか安堵の声を浮かべていた。
恐らく僕が残ることによって食料の備蓄が減らずにすんだという心の現れだろう。
そう、僕はこのゾンビが徘徊する世界で見つけなくてはいけないのだ。
可愛い幼馴染みの陽美を。
手がかりはまったくないが、あの大好きな陽美を見つけ出さないといけないのだ。
僕は今夜は廊下の見張りをすると申し出た。
僕の申し出を田沼は実にありがたそうに感謝してくれた。
負担が少しへったからだろう。
僕が見張りを申しでたのは、このグループがどこか好きになれなかったからだ。
田沼を中心としたこのグループはどこか様子がおかしい。
葉子さんはずっと田沼の様子をうかがい、なにかと世話をしていた。
ハンカチで汚れた口許をふいたりしている。
美咲は猫のようにあざとく、田沼の膝に手をおき、甘えていた。
夢野久美はその様子を一歩ひいて見ていた。
ただ、だまってレトルトのカレーをた食べていた。
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