第13話 左手に宿りし者

 お疲れさま、月彦。

 月彦の体はまだ人間そのものだからね。

 これだけの戦闘をすれば疲れてもしかたがないわ。

 でも、もうちょっとやってもらいたいことがあるの。

 少しまっててね。


 月読姫がそう言った後、左手に奇妙な違和感を覚えた。

 なにかくすぐったい。

 皮膚の内側から何かでてこようとしている。

 痛くはないが、もぞもぞとしてくすぐったい。

 僕は左手の手のひらを見た。

 そこにはうっすらと目と口が浮かび上がった。

 次に鼻ができる。

 それはすぐに人の顔になった。

 どことなく陽美の顔に似ている。


「やあ、やっと外にでることができたわ。外の空気は美味しいわね」

 その口から発せられたのは月読姫の声であった。

 すなわち陽美と酷似した声だ。

「もしかして……君は月読姫かい?」

 僕は訊いた。

「そうよ、どうにか月彦の左手に具現化することに成功したわ」

 ふふっと月読姫は笑った。

「それで、僕にやってほしいことってのはなんだい」

 左手に陽美そっくりの人面疽がうかびあがったのに、僕は冷静だった。

 その顔が陽美に似てたからかもしれない。

 見ず知らずの人の顔だったら左手を切り落としたい衝動にかられていただろう。

 そして僕は奇怪きわまることに少しづつ慣れていっているのかもしれない。

「それはね、アンデッドの頭にあるクリスタルを回収してほしいの。別名柔らかい石、賢者の石とよばれるものよ。そのクリスタルはアンデッドやモンスターの頭に寄生するもので、彼らを彼らたらしめているものよ。そしてね七つのギフトを発展進化させる素材となるものよ」

 月読姫はそう説明した。


 僕は月読姫の言う通り、ゾンビたちの頭からクリスタルというものを回収した。

 脳の中に手を突っ込むと妙な手応えを感じた。柔らかいような固い、なんだか中途半端な感触だ。

 それを引き抜いた。

 大きさは五百円玉ぐらいで、キラキラと輝く宝石のような物だった。

 脳をまさぐる感触は吐き気がするほど気持ち悪かったが、そのクリスタルは実に美しかった。

 僕は四つの頭部からそれぞれクリスタルを取り出した。


 左手にそのクリスタルを乗せると、月読姫はバリバリと食べ始めた。


「ありがとうね、これからクリスタルを集めて七つのギフトを強化していかないといけないのよ。この狂わされてしまった世界をいきぬくためにね」

 なるほど。

 どうやらこのクリスタルはハンター系のゲームにあるような強化素材というわけか。


 ザザザッ。

 ザザザッ。

 ザザザッ。

 またあのノイズだ。

 七つのギフトの一つ月桂樹が使用可能になりました、

 頭の中に月読姫の声がした。



「ちょっと、あんたゾンビの頭に手を入れて何をしているの……」

 僕の後ろに立ち、夢野久美は両手で口をふさぎながら、言った。

 

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