第11話 三日月の力

 ついにゾンビは肩まで侵入することに成功した。

 自動ドアをこじ開けるためにどうやら肩が外れてしまっているようだった。

 すでに死んでいるゾンビに苦痛とは無縁であった。


 また、新月の力できりぬけようか。

 しかしこの能力は夢野久美にもきくのだろうか。

 僕が思案していると月読姫が語りかけた。


 結論からいうとね、それは可能よ。

 体を密着させていれば任意の相手を新月の効果範囲にいれることは可能よ。


 ならひと安心だ。

 この場を切り抜けることはできるね。


 でも何時までも逃げているのは、癪にさわるわ。

 天野陽美博士の造った七つのギフトはそんなやわじゃないわ。

 

 じゃあ、どうするのさ。まさか戦うっていうのかい。


 そうよ、あんな低級アンデッドの数体なんか目じゃないわ。

 月読姫は強気だ。

 僕はその言葉に従うことにした。


 じゃあいくわよ。

 まずは三日月のアイコンをクリックしてみて。


 僕は言われるまま、視界の右下に浮かぶ三日月がデザインされたアイコンに意識を集中させた。

 カチッという音が頭の中に響いた。


 簡単に説明するとね、三日月の能力は強化よ。

 任意のものを強化できるの。それは無機、有機、問わずね。

 さあ、まずは木刀を強化してみて。

 やり方は簡単よ。

 強化したいものに意識を集中させるの。


 わかった、やってみるよ。


 チラリと木刀を見て、意識を集中させた。

 さらにイメージをふくらませ、切れ味抜群の日本刀を想像した。


 きらりと木刀は輝く。

 淡いひかりに木刀は包まれた。


 さすが月彦ね。

 木刀の強化に成功したわ。

 しかも物質変化までできているわ。

 初めてにしては上出来以上よ。

 さあ、あのゾンビをやっつけましょう。


 誉められて、僕はすこしいい気分になった。

 月読姫は誉め上手だな。


 僕は木刀を目一杯引き、渾身の力をこめてゾンビの頭めがけて突き技をくりだした。

 僕は突き技を繰り出すと同時に腕に意識を集中させた。

 三日月の能力で右腕も強化する。

 爆発的な力がみなぎるのを感じた。


 木刀は空を切り裂き、風を突き抜く。


 ぎらりと木刀は輝き、ゾンビの頭をスイカを割るように粉砕した。

 頭部を打ち砕かれたゾンビは自動ドアの後方に体だけ吹き飛んだ。

 脳みそが地面を真っ赤によごす。

 吹き飛んだ体はアスファルトの体を何度も転がり、やがて動かなくなった。


「残りもやっつけてくるから、ここで待っていてね」

 僕は夢野久美に言った。

 僕のすさまじい攻撃を見て、夢野久美は頷くだけで精一杯のようだった。

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