第10話 侵入者
抱きついてきた夢野久美の胸の柔らかさを楽しむ暇もなく、僕は緊張状態に陥った。
やっぱりゾンビがあらわれたか。
恐らく僕たちが出会ったときにあげた夢野久美の悲鳴をききつけてやってきたのだろう。
月彦、牛乳娘に鼻のしたを伸ばしてる場合じゃあないわよ。
少し怒った口調で月読姫がいった。
わ、わかってるよ。
僕は答える。
視界の右上を見ると、前方に一つの赤い点滅、その後方にも赤い点滅が三つ、こちらに近づこうとしていた。
この赤い点滅はゾンビのことだろう。
マップの点滅と目の前のゾンビの位置はぴたりと一致する。
ゾンビの動きは恐ろしく緩慢で、今すぐどうにかなるわけではなかったが、じわりじわりと自動ドアを開け、侵入を試みていた。
体をひねれば入ることができるのだが、そうしようそしない。
たぶん知能がそれほどたかくないのだろう。それは救いでもあった。
右手にしがみつく夢野久美は涙目で震えていた。
巨乳が震えていた。
それは仕方がないだろう。
普通の女の子は、こんなに醜く腐った動く死体を見て、冷静でいられるはずがない。
じりじりと自動ドアの隙間から奴はこちらに侵入しようしてくる。
さて、どうするか。
僕はゾンビを目の前にしていたって冷静であった。
そうだ、僕がこんなところであわてふためいても何も解決しない。
僕はぎゅっと夢野久美の手を握った。
「落ち着いて、僕がなんとかするよ」
僕は言った。
「で、でもあいつもうすぐ入りきっちゃうよ」
泣きながら、夢野久美は言った。
「大丈夫だよ、だから泣かないで」
僕は夢野久美を安心させるために笑いかけた。
せっかく見つけた生き残りをこんなところで失ってしまうのはあまりにもかわいそうだ。
「わ、わかったわ……」
どうにか落ち着かせることに成功した僕は手に持つ木刀を握りしめた。
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