第5話 一時避難

切り抜けることができたわね、おめでとう、月彦。

 月読姫は言った。

 言ったといっても脳内の話であるが。


 うん、ああ、ありがとう。

 でもいったいどうなっているんだ?

 僕は訊いた。


 簡単にいうとね、この世界はあの女みたいなゾンビが徘徊するような世界になったの。

 月読姫は答えた。


 一体どうして?


 ごめんなさい、それは私にも分からないの。

 きっと天野陽美博士をみつける旅でその謎は解明できると思うわ。

 今夜のところは博士の家にもどって夜があけるのをまったほうが懸命ね。

 あれらのアンデッドたちは昼間は活動がにぶってることがわかったいるわ。


 僕はその月読姫の言葉に従うことにした。

 たしかに月読姫の言う通りだ。

 まあのようなゾンビに暗闇で出くわすのはゴメンこうむりたい。


 

 陽美の家に帰った僕は全てのドアと窓の施錠を確認した後、食事をとることにした。

 陽美のお母さんはいつも災害用の食料や飲料水を床下収納やキッチンに保存していたのを思い出した。

 ガスや電気はつかなかったが、蛇口をひねると水が流れた。

 どうやら水道は生きているようだ。

 カセットコンロでお湯をわかし、レトルト食品で簡単な食事を済ました。

 日本の保存食のクオリティーにあらためて関心した。

 食事の後、水だけのシャワーを浴びた。

 初夏とはいえ、かなり体が冷たくなったが、さっぱりとした。

 クローゼットから男性用のスポーツウエアがあったのでそれに着替えた。

 それは海外赴任している陽美の父親のものだろう。

 たしか陽美のお父さんはアメリカの研究機関で働いているはずだったな。

 あまり話たことはないが、いつも難しい顔でいるのを印象深く覚えている。



 僕は陽美の使用しているベッドで眠ることにした。

 かすかに残る陽美の甘い匂いが精神を落ち着かせた。


 大丈夫よ、月彦。

 私が見張っているから今夜はゆっくりとおやすみなさい。

 この家は数少ない安全地帯なのだから。


 その月読姫の言葉を聞いたあと、僕は気絶するように眠りについた。

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