5-1.謁見
「さあ、見えてきたぞ、あれこそ、我らの王都。人口千五百万を
「なんと美しい……」
三月二十二日、早朝。
ついにトーリアス一行は王都へと着いた。彼は馬上で安堵と誇らしさが混ざった様な声色で言い、
なぜなら王都は神秘的な外観をしていたからだ。というのも、この都市はかつて世界が邪悪な存在に汚される前の、
「うーん……おはようございます。ここははどこですの?」
「もうすぐ王都に着きます」
「フロイもおはよう」
フーリナイアはフロイに朝の挨拶をすると肩を軽く叩く。するとフロイはそれに答えるかのように小さく
最初こそフーリナイアは一方的にフロイに敵対心を持っていたものの、
それから一時間後、一行は王都の城門に着いたがすんなり都に入るということにはならなかった。
いくら王命であり、騎士団長トーリアスの連れであり、フェルナイアの紹介状があろうと身元不明の男が王都に武器を持ち込むことに城門の守備兵長は難色を示したからだ。
噛んで含めるように説明を何度も行い、ようやく物理的な身体確認と魔法使いによる検査を入念に受けることでなんとか入門を許可されたころには正午をたっぷりと二時間は過ぎていた。
最後に守備兵長はこう付け加えた。
「それから
王都に入るとトーリアスは今後の予定について
まずトーリアスは今回の任務についてエンドリア王に報告を行い、その後
トーリアスの名前で宿を取ると、彼らは暫しの別れとなった。
「では、王との謁見の段取りが決まればこちらから連絡する。すまないがそれまではこの宿からなるべく出ないようにしてくれ」
「わかった」
「では
当然のごとく
「何するのですか!」
「申し訳ありません、しかしあなたは私たちと一緒に来てもらいます。王への挨拶があるので」
「えー、
「駄目です、あなたはフェルナイア様からの紹介状だけではなく王への手紙も預かっているでしょう。そもそもですね、当然のように男性と同じ部屋に泊まろうとしないでください」
フーリナイアは文句を言いながらも渋々トーリアス達に連れられて行った。
――――
あっという間に一晩が明け、日の出と共にトグルスが宿にやってきた。謁見の準備が整ったことの報告だった。二人はすぐに宿を出発した。
王都内では非常事態でもないのに軍用馬を走らせることは禁じられていたので王城に着いた頃にはすでに昼の三時を過ぎていた。
王都は先述の通り素晴らしい景観だったが王城はさらに一際変わった造りをしていた。
まず最初に通る城門は銀と鉄で作られており西を向いていた。
次に通る門は金と黒い鋼で造られており、東を向ていた。
最後に通る北を向いている門はなんと木材だけで造られていたのだ。そしてその門はいかなる魔法を用いたのかカリンやチーク、ブナなど木材としては一般的なもので造られているにも関わらず第一門、第二門よりも固く丈夫なのだった。
三つの門を通過し、さらに馬を進めるとようやく王宮の正門が見えてくる。手前の広場には東に噴水が、西に名前のわからない二本の木が生えていて、それぞれに六名ずつ青白く輝く鎧と
「お待ちください
守衛はそう言うと
「王に招かれた客人を警戒するのは無礼だと承知しております。しかし我らの任務は王のために万全を期すこと。どうかわかっていただきたい」
「いや、こちらこそ気が回らなくて申し訳ない」
玉座の隣には闇夜に
さらにその玉座の両側には
玉座の間にいるのはそれだけにとどまらない、右側にはトーリアス達武官たちが、左側には文官たちが控えており、
そしてもう一人、王の近くには巫女装束に身を包んだ女性が立っていた。事前にトーリアスから聞いていた話では彼女が英雄召喚の儀式を行ったという巫女で名前はトウコクホウノフキノヒメと言うらしい。短く切り揃えた
「どうだね、ヒメよ。彼がそなたが召喚したという者に相違ないか?」
「申し訳ありません陛下、見ただけでは何とも……被召喚者が召喚者の指定した場所以外に現れるなどということは初めてのことですので」
巫女は美しい声でそう答えると
「ただ実際に会ってみて……彼からは何か特別なものを感じます。良いものか悪いものかわかりませんが。少なくとも彼が王都に来たことによって何かが変わる予感がします」
エンドリア王は「ふむ……」と思案するような素振りを見せると脇にいた従者に何かを命じた。従者は一旦席を外したがすぐに車輪の付いた机を押しながら戻ってきた。そこにはなぜか
トーリアスは知らされていなかったようで驚いて気まずそうに
「ここにあるのはそなたの装備だ。忠誠の証にこれを全て余に献上せよ。そう言ったらどうする」
「陛下が心の奥からそう思いなら、かつそのことで迫りくる
「ほう、余ではこれらを扱う力量はないと申すわけか? また余にはそなたが忠誠を誓う程の資質はないと?」
エンドリア王は少し不機嫌そう言った。
「いいえ、私が見ましたところ陛下ほどの力の持ち主であればその剣も杖も、使いこなせるでしょう。しかし
「
「どちらも同じくらい不得手です。あまり出来の良い生徒ではなかったので」
「では、そなたの最も得意な武器はなんだ? 聞いておるところによると弓の腕前も中々のものらしいが」
「先ほども言いましたが、私は呪術と薬学に多少自信があるだけで故郷ではそれほど優秀ではありませんでした。が、それでも最も得意な武器は何かと問われれば槍になります」
「持っておらぬではないか」
「ええ、もちろん」
その答えに王だけでなく全員が
「うん? 余とそなたの間で何か齟齬があるような気がするぞ。なぜそなたは自分の力を完全に発揮できる状態にしておらぬのだ。トーリアスからも聞いておる。ラーナスールに自分の魔除けの装備を一つ置いてきたそうではないか。いったい何のためにそんなことをするのだ」
「私が槍を持ち、この世界で最も力ある者の一人になっては困るからです」
「誰が困るというのだ」
「陛下たちです」
「もし私が悪に染まった時、外道に足を踏み外してしまった時、使命を忘れてしまった時、私が強くてはあなた達が困る。もし私があなた達に仇なす存在となってしまった場合、あなた達は私を倒さなくてはならないのだから」
玉座の間はが静まり返った。誰もが
「私は常に不完全な状態で敵と戦わなくてはなりません。未熟なまま闇に飛び込まねばならない。それが私に与えられた加護でもある」
「加護とな……? 力を弱められることがか?」
「はい、その加護のおかげで私は少なくとも卑怯な裏切り者として貶められることはないでしょう。未熟者である私にとってはこの上ない贈り物です」
近衛騎士等の表情を読むことができない少数の者以外の全員が
エンドリア王は感嘆して「なるほど、フェルナイアが信用するわけだ、あのフーリナイアの変わりようにも合点がいく」と言った。
「
共に旅をしたトーリアスやラーナスールの者ならともかく余は噂でしか“
しかし今はっきりとわかった。御身はたとえ
「慎重であることは良いことです、陛下は賢者であられる。ああ、それに私に敬称は不要です」
多くの者がこれで謁見は終わりだろうと思っていたがそこに待ったの声をかける者がいた。
「陛下、私はまだ彼を完全に信用するには早いのではないかと思います」
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