第3話 獅子狼 大志を抱く
【獅子狼とアッちゃん 2】
その夜、獅子狼は考えに考えた文面をアッちゃんに送った。
五月が言ったアドレス変えられたりしてっという言葉を思い出しながら。
数秒、不安な気持ちで待ったが返信不能の連絡は来なかったので獅子狼は大きく安堵のため息をつくのだった。
数分後、着信のアラームが鳴った。
携帯に獅子狼は飛びつき画面を見た。
アッちゃんからのメールだった。
獅子狼はメールを開き、文面を読んだ。
「太陽さんのライバルになる。甲子園のマウンドを目指す。素晴らしい決意表明をありがとうございました。
世の中の誰も知らない一人の高校生の決意表明を私だけが知っているんですね。
何か特別な一人になったような気がして嬉しいです。
獅子狼さんが私に大きな夢を持って立ち向かって行くと宣言してくれたお返しに私も大きな夢を思い切って宣言します。
私、アッちゃんはテレビ局のアナウンサーになります」
獅子狼は、アッちゃんからのメールを何度となく読み返した。
「特別なたった一人の人」という言葉が心地よく胸に響いた。
そして自分なんかにアナウンサーになる、という夢を宣言してくれた。
顔も知らない一人の女子高生と繋がっていることに得も言われぬ幸福感を感じるのだった。
そして獅子狼は、しばらく自分の考えを整理して
「夢の宣言ありがとうございました。俺たちはお互い、どこの誰か知らないから、お互いに約束を破っても、恥をかくことも約束破りと人に陰口を言って回られる心配はありません。
でも、俺はアッちゃんとどこかで会えたときに胸を張れるように努力をしていくことを改めて誓います。
これまで、自分の才能に見切りをつけ自分で可能性を否定していたけど、身近に大天才がいる、その大天才に挑戦するという機会に恵まれた幸福に感謝して全身全霊をかけて努力し続けます。
こんな考えにしてくれてありがとうございます」と打ち送信した。
これを機に獅子狼は太陽を親友としてだけではなく一方的にライバルと位置づけ野球に取り組んで行ったのだった。
そして、その陰にはアッちゃんからのメールを通しての励ましがあったのだった。
相手はライバルというには背中も見えないほどの差があるプロも注目するピッチャーであったが、諦めることなく投げ出すことなく獅子狼は直向きに努力を続けた。
まず、スポーツ選手は身体が武器と考え身体作りを心がけた。
カルシウム、タンパク質等、身体を大きくするためにバランスが取れた食事と栄養摂取に努めた。
練習は、周りにたくさんいる天賦の才能に恵まれて同級生を徹底的に観察し、盗めるものは何でも盗もうと彼らを真似て行った。
彼らが、すぐにできたことを獅子狼は繰り返し繰り返し反復することで彼らに必死について行った。
毎日のように、弥生を捕まえては助言を求めた。
帰宅してからは、プロの投球術を見て分析に務めた。
そんな日々の取り組みや感想を獅子狼は毎日のようにアッちゃんに送った。
アッちゃんも、それに小まめに返信して来た。
獅子狼を元気づけたのはアッちゃんが調べて教えてくれた昔のプロ野球名選手のエピソードであった。
特に本塁打記録第2位で三冠王を取ったほか監督としても実績を残した野村監督がテスト生入団で2年目は契約解除を言い渡されていたという話であった。
必死に頼み込んで温情で契約更新をしてもらった程度の選手がなぜ、その後大選手となり「名選手名監督にあらず」と言われる中、監督としても大成功したか、については獅子狼の心を勇気づけるものであった。
当時誰も考えも及ばなかった相手ピッチャーの投球分析を行ったことや、そのデータ野球が監督になっても活きたことを知り、才能は他の努力で差を埋めることができることを知ったのだった。
ある時は、ラグビー日本代表の「ブライトンの奇跡」がなぜ実現したのか、という話を送ってくれた。
それ以前の日本代表は、代表に選ばれる一流選手自身が「身体が大きな外国選手に身体が小さい日本人が勝てるわけがない」と思い込んでいた。
それをヘッドコーチになったエディーコーチが
「身体が小さいことは弱点ではなく身体が大きい者より素早く動けるという長所だ」
と説き、それをジャパンウェイと名付けた。
そして選手が経験したことがないと言うほどのハードワークを課して、それを選手に実感させて選手に南アフリカ恐るるに足らずというところまで選手の気持ちを高めた、というエピソードが打ってあった。
アッちゃんが参考にしたという本の名前を書かれていた。
野村監督の時も著書名が書かれていたが獅子狼はアッちゃんが教えてくれた本は素直に全部、読むことにした。
これらの読書を通じて獅子狼は数々の勇気とやる気を手に入れて行くのであった。
人の限界は人が作り出すものであり、限界点は心構え一つで、いくらでも上げて行くことができる、獅子狼はスポーツの先達から学び自分もそうありたいと実践していった。
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