世間 2
翌日の夜、浦和は速いペースで飲んだ。おごるからお前も飲め、と何度も言った。あまり飲めないという赤羽のグラスに繰り返しビールを注いだ。お前はバカだけどいい奴だ、と言って、いい奴だけどバカだ、とも言った。赤羽は、喜んでいいやら怒っていいやらわからなかった。
そして浦和はそっと口を開いた。アッチャン、俺はね、若い頃は官僚だったんだ。ずっと官僚でやってくつもりが、ある時ワイロを渡されて、断ったら翌日から仕事がやりにくくなったんだ。
「え、どうしてですか? 立派じゃないですか」
「ワイロをもらった連中がオレをいびり始めたんだよ」
「なんでですか? もらえなかった人がもらった人をやっかむなら、わかるんですが」
「告げ口されるのが怖かったんだよ」
「え…」
「職場に
そういうことか。そういった世界なのか。世間は広い、と赤羽は妙なことを思った。世界には僕には想像もつかないところがあるんだ。
いつしか浦和も赤羽もロレツが回らなくなっていた。閉店となる頃には二人とも爆睡していた。弱り顔の店員に起こされ、代わりに赤羽が支払いを済ませ、何とか駅まで歩かせて
浦和を
その日、
「昨日はごめんな」
「いえいえ。浦和さんはもう大丈夫ですか? 酒臭い、って女子社員から敬遠されてましたよ」
「あれは恥じらっているのさ、オレがあんまりいいオトコだから」
「そのジョークって、何か昭和すよね」
「令和がナマ言ってんじゃない」
「ナマってなんすか?」
「おい、明日はまた飲みに行くぞ」
「え、また行くんですか?」
「明日は得意先の接待だから。お前も来い」
「しょうがないっすね。でも明日はラブホには行かないっすよ」
「昨夜のはちゃんと払うから」
「ありがとうございます。ラブホの領収書、浦和さんの財布に入れておきましたから」
「そんなとこに入れんじゃないよ。オレの奥さんが見たら、どうすんのさ」
「ちゃんと言えばいいじゃないですか、ボクと一緒に泊まったって」
「オレの奥さん、
「だからちゃんと言えばいいじゃないですか、お互い信頼しあっている関係だって」
「お前はオレの家庭を壊す気か」
「決して恥ずかしい関係なんかじゃない、って説明すればいいじゃないですか」
「正直が人間関係を壊すってことも、世間にはザラにあるんだぞ。お前、わかってて言っているのか?」
「全然わからないっす。何が問題なんすか?」
「こうだからお前は…」
こうして職場の夜は
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