第5話 照川視点
今日は蒼次と勉強会を取り付けた。幸運なことに、たまたま彼も学級委員だったので、接触する理由ができたのだ。
彼と私は幼馴染だ。幼小中高と同じ学校に通い、仲がとっても良かった。彼はとんでもなくポジティブ思考だった。私は元々心配性で自信がない人間だったから、彼の言葉には何度も助けられた覚えがあった。小学校4年生になったときには、たくさんの友達ができて、私はみんなの中心にいたと思う。
ポジティブでなんだかほんわかしているような幼馴染を、私は弟みたいに思っていた。
中学1年生の秋だった。彼が私に告白してきたのは。私はその場ではなく、1日おいてから断った。本当にどうすればいいのかわからなかったからだ。私は彼をよく思っているけれど、恋っていうのにウトくてよくわからなかったのだ。でも、相手のことを男性として好きってわけでもないのに承諾するのは間違いだとおもったから断った。
私がふった後でも、やっぱり普通に話しかけてくれていた。私は間違いじゃなかったと胸をなでおろした。しかし、1週間ほどたってから私は話しかけられなくなり、彼の眼もとに隈ができ始め、中学2年生になるときには漫画みたいに濃くなった。
さすがに心配になって私から話しかけてみても、
「ちょっとゲームに夢中になりすぎちゃってさ。」
なんてへたくそな嘘をつかれた。私にはわかる。嘘をつくときに唇を湿らせる癖があることは知っているから。でも、どれだけ追及してもはぐらかされるので、さすがに嫌になって彼に怒鳴ってしまった。なんて言ったかもう覚えてない。それからはなかなか話さなくなった。
私が蒼次とまた話したのは中2の3学期になってからだった。私がストーカー被害にあったときに助けを求めたからだ。その時には随分と隈は治っていた。しかし、目がぎらぎらとしていて、ほんわかとした雰囲気はほとんど消え去っていた。でも、とても頭がよくなっていた。これは相談したときの会話だ。
「ほお、じゃあ後をつけられてたっていう証拠を集める必要があるな。」
「一緒にいてくれるだけでなんとかならないの?」
「そりゃあもちろんしばらくは一緒に帰ろう。でもいつもそうできるかはわからんだろ?塾に行くことになるかもしれないし。ならやっぱり捕まえておく必要があるだろうさ。」
「どうするつもりなの?」
「スマホ持ってくる。」
「スマホ持ってくるのは禁止でしょ?」
「大丈夫。法律上、校則は合理性が損なわれるような内容であった場合には無効になるんだ。」
「そうなの?」
「そう。まあ先生ともめたくないから内緒で持っていくけど、持ってきたことがばれたら説得するさ。」
「でも、証拠を持ってきてどうするつもりなの?」
「まず証拠を俺のPCに入れてから、録音しながら先生にその証拠を持って行ってどうやって対応するのか見てみる。それで適切な対応をしてくれるようであればそこまで。不適切であると判断した場合警察に被害届を出そう。まあ俺がサポートするさ。」
「録音しながらって犯罪にならないの?」
「そうだなあ、確かに。じゃあ宣言したうえで録音するしかないか。」
「大丈夫なの?」
「大丈夫。俺に任せときな。ただ、これからは自室のカーテン開けるなよ?あと鍵もかけとけ。」
「わ、わかった。」
ストーカー被害にあっていることに対して怒りをあらわにしていたのは印象的だった。で、私でもよくわからない間に全部解決していた。だからよくわからない。
何をしたのかは逐一言ってくれていたけど、全然頭に入ってこなかった。でも、かっこいいような気がした。
勉強会をとりつけた日の放課後、蒼治と一緒に帰ろうかと思ったら知らない女子に話しかけられて、そのまま一緒に帰っていくところを目撃した。
…意外と蒼治ってモテるほうなのか。
いや、そんな様子じゃないか?私もバスに乗らなければ帰られないので、できるだけ存在感を薄くしてばれないように一緒のバスに乗った。蒼治とその子はバスの2人座りの椅子に並んで座っていた。よく見るとこの人めっちゃ可愛いな。
話が盛り上がっている感じもなく、ただ平凡に話をして、ネタが切れたら黙りこむって感じだった。昔はどうでもいいことをペラペラしゃべってるタイプだったのに、変わったものだ。
バスを降りるとき、蒼治と一緒にいた女の子に見られている感じがした。務めて気づかないふりをしたけど。
ここで蒼治に話しかけたら気まずくなるような気もするけど、わざわざ時間を空けるのもなんだか癪な気がしたので、話しかける。
「いったん帰るのも面倒だからもう家行きたいんだけど。」
「うお!びっくりした!」
「いい?」
「あ、うん。いいよ。」
「ありがと。」
「部屋片づけてたっけな…」
ネタが切れたら黙り込むってさっき言ってたけど、やっぱり私も途切れてしまう。どんな話をすればいいんだろう。あの時告白を断らなきゃよかったなあ。私はもうここ1年くらいずっと後悔してる。
「なんか話せることとかないの?」
「ちょっと疑問に思ってたんだけど、俺に頼らなくてもみーちゃんはいい点とれると思うんだけど、なんで勉強会を開くの?」
「あんたと話す機会を作らなきゃって思っただけだよ!」とは言えないので、とりあえず適当に答えておく。
「確かにそうかもしれないけど、ここでいい点とらなきゃ多分高校で100点とかとれる機会なくなるでしょ?」
「お、やっぱりそう思う?俺もそう思ってたんだ。ここでいい点とれなくて死ぬほどマウント取られるのもいやだからさ。」
「マウントかあ。そんなことする人いるのかな?」
「どうだろね。でもこの学校そういうやついそうな偏差値してると思うよ。」
「まだこの学校不満あるの?」
「いや、最初からないはずだよ。別に最終学歴じゃないし。」
「そうなの?私は不満あるけど。」
「まあ、この学校バス乗らなきゃ入れないもんな。」
「あんた落ちたのになんでそんな不満とか出てこないの?」
こいつは私と同じ学校に志望していたはずだ。私は彼に合わせて受験したのだから。
「別にないな。こうして結構楽しく暮らせてるしな。」
蒼治がへへっとでも言いそうな感じで笑った。
ちょっとドキッとした。
そういえば春休み明けからだんだん昔のようなほんわかとした雰囲気を取り戻してきているような気がする。
「なんかいいことでもあったの?」
「え?なんで?」
「いや、なんか雰囲気がよくなってきてるから。」
「そ、そう?」
「うん。よくなってる。」
わたわたとしてからしばらくして、蒼治はごまかし始めた。
「さてと、勉強しよう?」
「そうね。」
なんだか照れてる蒼治を見てるとなんだか高圧的な態度をとらずに話しかけられるみたいだ。なんでなんだろう。
ゆっくりと時間は過ぎていく。
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