第4話 倉本視点

 誰にでも黒歴史というものはある。俺にももちろんあるわけだ。

 今の俺の姿からは考えられないだろうが、俺は元々勘違いしやすい頭の中にお花畑があるような感じの人間だった。

 それが変わったのは、中一の秋、幼なじみに告白したときだった。俺はめちゃくちゃドキドキしながらも、心の奥では成功すると思っていた。しかし、俺はフラれた。いつかに言ったと思うが、自分と相手の関係性しか頭になかったからだ。

 俺は頭お花畑くんだったのだが、それでも親はかなりの金持ち。しっかりと俺にはその能力の高さの一部が遺伝していた。

 それが論理的な思考だ。失敗したら何故失敗したのかを考える癖は出来上がっていた。

 そして、相手の状況が頭に入っていなかったことに問題があったのだと気が付いた。それからは、幼馴染のことが諦め切れなかったので彼女の状況について考察した。

 その後に、俺は自分の強みと弱みを把握し始めたのだ。そこで問題が発生。

 俺に長所がなくて病んだのだ。これがちょうど中二のときだ。


 あとは、2話の冒頭の通り、俺は責任転嫁をして正気を取り戻したのだ。もう取り戻した時には流石に俺も幼馴染のことについて諦めがついていた。



 だが、この状態はあんまりではないだろうか。


「学級委員なんでしょ!?なんで昨日集まらなかったの!」


 なんで俺が学級委員だって把握してんだこの幼馴染は。クラス違うのに。


「もうなんかお腹痛くてさ。」

「それ昔っから使ってる言い訳だよね!?嘘ついてるでしょ!」


 昔っから俺は事あるごとにお腹痛いと言って面倒ごとから抜け出ていた。頭お花畑くんだったから。


「忘れる事だってあるでしょ?それに、スマホで招集されてももう無理だっての。」

「でも自粛前に話してたはずでしょ?多少考慮しておきないよ!」


 もうやだ。ちなみに告白する前はこんな高圧的じゃなかった。てか話しかけてくるようになったのは私立の受験終わりだ。だから、なんでこんな感じになったのかわからない。思春期の半年のブランクは大きすぎる。


「じゃ、俺は何すれば良い?」

「これ決まったことを紙にまとめたやつだから!これちゃんと読んでおくこと!」

「わかった。ありがとう。助かったよ。」


 きっと自然に話せたはずだ。だが、流石にフラれた相手に話しかけられると気まずい。でも、彼女の物語はこの高校で花開くはずだ。伏線はたくさんあったのを俺は知っている。どうしてこうも高圧的なったのか。俺が病んで周りが見えなくなっていた間になにがあったのか調べなくてはならない。ラブコメ的な感覚で行くと、好き引きということが考えられるが、こいつは俺を振った後普通に彼氏作ってたし、ありえないだろう。いくつか心当たりがあるのでどれなのか探らなければ。


「手間かかったんだから!今度からちゃんと来い!」

「わかった。ちゃんとするよ。」


 ほんとにこれどんだけ手間かかってんだろうな。ありがたいけどさ。でも俺じゃんけんで負けて学級委員になっただけだしなあ。


「お礼に中間テスト不安だから教えてほしいんだけど?」

「まじか。」

「嫌だっていいたいの?」

「いや、大丈夫。じゃあ帰ったら俺んち来てくれ。」


 正直めちゃくちゃ嫌だ。だってフラれた人と一緒に勉強なんて手が付くわけがない。しかし、恩返しはしなきゃダメだろうし。あーいやだいやだ。なんであんなタイミングでGOしちゃったのかね。あの時の俺はさ。


「わかった。じゃ、私は教室に戻る。」

「またな。」


 はー、憂鬱だ。こういう風にへこんでいる自分に自覚すると、まだまだ自分の未熟さを感じる。ちゃんと毎朝瞑想しなきゃダメだな。私情に流されすぎている。過去がどうであれ、あの高圧的な態度を向けられる現状を打破しなくては相談も持ち出してくれない。




 必死になってその日は授業を受けた。正直に言うと、幼馴染の照川美鈴てるかわみすずの質問に答えられるほど、俺は頭がよくない。彼女のほうが圧倒的に頭はいいだろう。質問しに来たけど結局教える羽目になったとあれば、ますます軽蔑されてしまう。


 放課後にはもう頭はへとへとだった。そんなときに赤坂さんが話しかけてきてくれた。


「倉本くん、今日も宿題やってから帰るの?」

「あー、今日はちょっともう帰んないといけないんだ。」

「あ、そうなの?一緒に帰る?」

「うん、一緒に帰ろう。」

「もう学校では宿題はやらないの?」

「テスト期間はたぶん学校で勉強すると思う。家じゃやっぱり集中できないからさ。」

「やっぱりそういう人って多いよね~。だから店で勉強してる人とか多いんだろうね。」

「店は店で集中しにくそうなもんだけどな。」

「試してみる?」

「うーん、まあいつかは試してみてもいいかもね。」

「今日はもしかして用事があるの?」

「うん。正直気が向かないけどね。」

「何があるの?」

「ちょっとした勉強会かな?」

「へー、そういえば中間テストもうすぐなんだっけ?」

「うん。自粛明けで忘れがちになるけど、もうテスト2週間前。」

「きっついねー。でもまだそんなに難しくないけどさ。」

「そうだな。中3の時のほうが難しかったまである。でもここでくじいたら40点以上なのに成績表では欠点になってる可能性もあるし。」

「そんな調整の仕方するかな~?」

「わかんね。でもまあさすがにないような気がするけどな。」


 頭が疲れすぎてもう帰りたい。でも帰ったら気まずい。あー、もうなんも考えられん。なんて考えていると敵牢に返答しているのがばれたようだ。


「適当だな~」

「いやあ、でも先生に聞かなきゃ答え出ないじゃん。」

「まあ確かにそうだけどさ~」

「そんなことよりどうなの?勉強とかしてるの?」

「いーや、全然してない。」

「そういってるやつの半分は実際やってるからな~」

「特待生なんだからそれで嫌な気分にはなんないでしょ?」

「いや、別にもとから頭よかったわけじゃなかったから普通にむかつく。」

「そうなの?学校で宿題やるくらい真面目だから優等生ってイメージだったんだけど。」

「全然そんなんじゃないよ。大体学校で宿題なんて受験期入ったころからだし。」

「じゃあ受験期にめちゃくちゃ 伸びたタイプだったの?」

「うん。めっちゃ伸びたんじゃないかな。俺それまではゲームしかしてなかったし。」

「へー、ゲームとかやるほうなの?」

「うん。」

「意外!」

「赤坂さんの中で俺はどういうイメージなの?」

「え?変わり者な優等生?」

「変わり者!?俺そんな風に思われてたの!?」


 は?俺が変わり者だと?誉め言葉か?しかし、俺は変なところを見せないように過ごしているはずだし、そんなことを言われるようなことをした覚えはない。


「変わり者でしょ?」

「どこがよ。」

「困ってそうな顔してるからって普通初対面の人に話しかける?」

「当たり前でしょ。」

「普通初対面なら困ってそうな人には話しかけないよ?」

「いやいやいやいや、それが普通ならもう人間社会が腐ってるとしか言いようがねえ。」

「ひどいこと言うな。私も話しかけられる自信ないんだけど。」

「大丈夫だって。きっと話しかけられる。」

「なんで?」


 なんで?と言われても、俺に恩を感じた様子だったからだ。赤坂さんはかなり殊勝な人間だ。俺が宿題終わるまで待ってくれるような「お人好し」。お人好しっていうのは基本的に憧れが強い人がおおいのだ。恩を感じている俺の行動に対して憧れを抱いている可能性はかなり高い。

 なんて俺がここでいうわけにもいかないので、当たり障りのないように端折っておく。


「わざわざ俺が学校で宿題してる時付き合ってくれたじゃん。」

「それとこれとは関係なくない?」

「関係あるさ。きっと動ける。」

「そうかなあ?」

「もちろん。でもあんま無茶するなよ?」

「無茶ってなに?」

「自分のルックスがいいことには自覚があってほしいってことだ。」

「?…どういうこと?」

「単なる人助けのつもりでも、そのルックスでは勘違いする男が出てくるってことだよ。」

「それが何で無茶になるの?」

「ストーカーになるやつが出てくる可能性がある。何か異変があれば絶対に俺に相談しろって言いたかったんだ。赤坂さん抱え込むタイプだろ?」

「わかった。」


 ここで注意したのもやはり、このあと会うことになっている美鈴が原因だった。

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