第4話 赤坂視点
無事に生活保護の申請が完了したらしく、うちには落ち着きが戻ってきた。ラーメン屋だったこともあって、安い食品ルートは把握しているらしく、食事はそこまで酷くはならなかった。ただ、風呂は3分しかシャワーを使うなと言われた。湯船のお湯を張ることも禁止された。
お父さんはしばらく休むことにした。このまま就活を始めて体を壊されたら大変なので、しっかり休んでほしいとおもう。
そういえば、「倉本くんが私に惚れているのではないか問題」は、やっぱり完全に惚れていると推察した。
倉本くんが異常な行動をとったのはやはり彼が陰キャでこじらせており、恋をしているからだと推察した。私がネットで調べたことなんだけど、どうやら恋をしている人っていうのは基本的に20分あとのことまでしか考えられなくなるくらいまで知能レベルが下がるそうだ。だからあんなおかしな行動をとったのだと考える。
それに、今日の放課後は落ちないほうがおかしいようなシチュエーションだった気がする。彼はひとりで宿題をやるのはさみしいと感じているらしい。しかし、彼はなぜか学校でやることに固執していた。そこに私がわざわざ合わせて宿題をいっしょにやったのだ。
さらに、目を合わせるっていう行為自体が他人との心理的な距離を縮めてくれるらしい。彼は話してるとき基本的に目を合わせようとし続けてくる。おそらくこれは彼の癖だとは思う。しかし、その癖のせいで落ちたのだと考えた。
さて、ここまで情報を整理したが、だからと言ってどうするべきなのかわからないしなあ。
「はあ。」
シャワーを止めながら、ため息をついた。
正直彼は彼氏にしたいと思うタイプの人じゃない。どちらかというと親友であってほしいタイプだ。
彼氏って基本的にいつかは関係がこじれて別れる羽目になる。しかし、親友っていうのは基本的に関係がこじれそうになっても修復され、より強固になっていく。というイメージがある。彼は人生においてとてつもなく頼りになると思う。彼のスペックを考えてみてほしい。
・学力が高く、特待生である。
・他人の異変に気が付き、仲よくなくても話しかけることができる。
・ブスではない。
やっぱり彼氏っていうよりも親友であってほしいタイプだ。学力が高いっていうのは高校生の間は正直恋人には求めてない。
よって、彼の思いを受け入れるつもりはない。
とはいえ、別に告白されたわけでもないのに断るっていうわけにもいかない。
どうしたもんかなあ。
ま、なるようになるか。そう思いながら、私はチックタックを見ようとしていたスマホの電源を切った。
次の日の朝、学校に登校すると、さやかが話しかけてきた。
「おはよー、そういえば宿題見せてくんない?」
「またやってないの~?」
「だいたいおかしいよ!自粛休みだってのに宿題出るなんて!」
「そりゃあオンラインで授業あったんだから宿題だってあるよ。」
「それをわざわざ紙で出させないでほしい!もうスマホで全部送れるようにするべきでしょ!」
「それはスマホを全員持ってる前提で話を進めたら学校的にまずいからでしょう?」
「じゃあオンラインで授業しちゃだめじゃん!」
「そういわれると何にも言えないんだけど。」
「でしょー?」
「でもここ私立だし、多少強引なこともできるんじゃない?」
「はー、ほんと最悪~」
「でもさやか結構頭いいんでしょ?」
「そんなことないよ~」
「そこで常識人みたいな反応されても困るんだけど。」
「ひどっ!常識くらいあるよ!」
「常識ある人が宿題全部移させてもらうわけないでしょー?」
「そうなの?みんな結構こうしてる人いると思うけどな~」
「みんながみんな常識人じゃないってこと!」
「それはもう常識とは何かって話になってくるよ?」
「なんで!?」
と、ちょっとしたコントをしていると、ふと倉本くんが目に入った。倉本くんはなにやら女の子に怒られているらしかった。なんだあの子、めっちゃ可愛いな。背が低くてポニーテールの子が何やらぎゃーぎゃーとさわいでいる。
「あれ、何やってるんだろうね。」
「へ?なんのこと?」
「え?いやあ、何でもない。」
口に出てしまっていた。急いで視線を元に戻した。へー、意外と倉本くんってモテるほうなのか。
「ほら、授業始まるよ?席に戻りな。」
「へーい」
あー、オンライン授業は楽だったのに、登校し始めるとしんどい。オンラインならさぼり放題だったのに。普通に解説もわかりにくいんだよな~
古典は正直覚えればいいだけなのでかなり楽なのだが。それでも退屈だ。倉本くんはいつも通り真剣に授業を聞いているらしい。よくあんなのでノートをとろうと思えるよなあ。
ひたすら耐えるように、今日の授業をこなし、放課後だ。倉本くんは今日も宿題やってから帰るつもりなのかな?
さやかが部活の見学へ行ったのを確認したら、倉本くんに話しかける。
「倉本くん、今日も宿題やってから帰るの?」
「あー、今日はちょっともう帰んないといけないんだ。」
「あ、そうなの?一緒に帰る?」
「うん、一緒に帰ろう。」
「もう学校では宿題はやらないの?」
「テスト期間はたぶん学校で勉強すると思う。家じゃやっぱり集中できないからさ。」
「やっぱりそういう人って多いよね~。だから店で勉強してる人とか多いんだろうね。」
「店は店で集中しにくそうなもんだけどな。」
「試してみる?」
「うーん、まあいつかは試してみてもいいかもね。」
「今日はもしかして用事があるの?」
「うん。正直気が向かないけどね。」
「何があるの?」
「ちょっとした勉強会かな?」
「へー、そういえば中間テストもうすぐなんだっけ?」
「うん。自粛明けで忘れがちになるけど、もうテスト2週間前。」
「きっついねー。でもまだそんなに難しくないけどさ。」
「そうだな。中3の時のほうが難しかったまである。でもここでくじいたら40点以上なのに成績表では欠点になってる可能性もあるし。」
「そんな調整の仕方するかな~?」
「わかんね。でもまあさすがにないような気がするけどな。」
なんというか、「いい点とりゃ関係ないでしょ」っていう考え方が透けて見える。頭がいいようで究極的な面倒くさがりなのかもしれない。
「適当だな~」
「いやあ、でも先生に聞かなきゃ答え出ないじゃん。」
「まあ確かにそうだけどさ~」
「そんなことよりどうなの?勉強とかしてるの?」
「いーや、全然してない。」
「そういってるやつの半分は実際やってるからな~」
「特待生なんだからそれで嫌な気分にはなんないでしょ?」
「いや、別にもとから頭よかったわけじゃなかったから普通にむかつく。」
「そうなの?学校で宿題やるくらい真面目だから優等生ってイメージだったんだけど。」
「全然そんなんじゃないよ。大体学校で宿題なんて受験期入ったころからだし。」
「じゃあ受験期にめちゃくちゃ 伸びたタイプだったの?」
「うん。めっちゃ伸びたんじゃないかな。俺それまではゲームしかしてなかったし。」
「へー、ゲームとかやるほうなの?」
「うん。」
「意外!」
「赤坂さんの中で俺はどういうイメージなん!?」
「え?変わり者な優等生?」
「変わり者!?俺そんな風に思われてたの!?」
「変わり者でしょ?」
「どこがよ。」
「困ってそうな顔してるからって普通初対面の人に話しかける?」
「当たり前でしょ。」
「普通初対面なら困ってそうな人には話しかけないよ?」
「いやいやいやいや、それが普通ならもう人間社会が腐ってるとしか言いようがねえ。」
「ひどいこと言うな。私も話しかけられる自信ないんだけど。」
「大丈夫だって。きっと話しかけられる。」
「なんで?」
「わざわざ俺が学校で宿題してる時付き合ってくれたじゃん。」
「それとこれとは関係なくない?」
「関係あるさ。きっと動ける。」
「そうかなあ?」
「もちろん。でもあんま無茶するなよ?」
「無茶ってなに?」
「自分のルックスがいいことには自覚があってほしいってことだ。」
「?…どういうこと?」
「単なる人助けのつもりでも、そのルックスでは勘違いする男が出てくるってことだよ。」
「それが何で無茶になるの?」
「ストーカーになるやつが出てくる可能性がある。何か異変があれば絶対に俺に相談しろって言いたかったんだ。赤坂さん抱え込むタイプだろ?」
「わかった。」
ちょっと話が分かりにくいけど、優しさは何となく伝わった。
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