第3話 倉本視点

「よし、宿題終わった!キリのいいところまで行ったら帰ろうか。」

「もう大丈夫だよ。帰ろ!」

「気にしないでいいんだよ?」

「ほんとに大丈夫。」

「そうか。赤坂もバス?」

「うん、私もバスだよ。てか、宿題があんまり遅くなりすぎるとバスめっちゃ遅くなるんじゃない?」

「あー、確かに。もう高校からはやめたほうがいいかな?」

「うーん、そうかもね。部活とかどうすんの?」

「俺は軽音部かな~。ギターとか楽しそう。」

「へ~、いいじゃん。」

「赤坂は?」

「私はそうだな~、テニス続けようかな。」

「中学からテニスやってたの?」

「うん。結構いいところまで行ってたんだよ?県大会まではでたし。」

「へ~!すご!」


 スポコン物のストーリーをお持ちなのかな?すごくおもしろそう。手とかどうなってるんだろ。


「すごい手!受験はさんだはずなのにまだ固いな!」

「女子にそういうこというのよくないぞ?」

「そうなの?でもすごいかっこいいと思うよ?だって、実力とかは才能とかで差が出たりするけど、この手の皮とか筋肉とかはみんな平等に強くなるじゃん。実力以上に努力の証でしょ?」

「まあ確かにそうだけど。」


 かてえ!すごいな!青春だ!青春の感触がする!素晴らしい!ふつくC!

 とか思ってたけど、これは失敗した。ついに来た思い出話に興奮しすぎてしまった。話そらしたほうがいいか。


「この山夏になったらぜったいめっちゃ虫出てきそうだよな。」

「うぇ、やだな~」

「中学の夏休みにこの学校の見学に来たけど、トイレに3匹くらいげじげじいたもん。」

「やば。キモ!」

「やばかった。小便してるときに上見たら真上にげじげじいたからね。ビビりすぎてちびったもん。」

「そりゃ小便中なんだから当たり前でしょうが。」

「あ、ばれた?」

「ばれたってなんなんだよ。」

「いや、ちょっとスベったから切り抜けようと思って言いました。」

「もう手遅れなんよ。」

「ゆるして。」

「だめです。」

「そんな~」

「ほら、バス来たよ。乗るよ。」


 激スベリしたけど話をそらすことができた。バスに乗り込みながら、次に話すことを考えている。趣味?そうだ、趣味だ。俺はまず仲を深めるなかで一番基本的な「趣味を聞く」をやっていなかった。


「初対面で聞くべきだったのかもしれないんだけど、赤坂はなんか趣味とかあんの?」

「趣味?そうだなあ、趣味かあ。なんかいっぱいあるからこれって絞れないんだけど、音楽鑑賞かな?最近はボカロとかも聞くようになってきたよ。」

「あー、チックタックから?」

「そうそう!倉本くんも入れてるの?」

「いやー、入れてはないんだけど、大体わかるよ。コメント欄でたまに見るもん。」

「あー、でもみんなが言ってるようなそんな悪いもんじゃないと思うよ?」

「まあ確かにあの短い動画をガンガン見られるっていうのはすごい革命的だなって思うけどね。」

「倉本くんは結構反対派なの?」

「うんまあ、チックタックを入れること自体がまずナンセンスだと思うよ。ただ見てるだけの人は特にね。」

「えー、なんで?」

「まずあれどちらかっていうと受動的に見るもんだから、IQの低下が起こりやすいんだよ。」

「そうなの?」

「そうだよ。TV見てんのと同じ。俺んちせっかくTVないのに、チックタックなんて入れたらむだに不自由を被ったことになる。」

「え?倉本くんTV家にないの?」

「うん。なんか集金されんのがなんか癪だったんだって。」

「え~、ニュースとかどうしてんの?」

「見てない。」

「いや、見たほうがいいでしょ。」

「いやいやいやいや、てかなんでみんなニュース見てんのかわからん。」

「情勢とかわかったほうがいいんじゃないの?」

「そんなもん他の人は見てるんだから、友達と話してれば勝手に情報は手に入るじゃん。」

「いや、いるでしょ」

「まあいいや。こういう話って全員としてきたし、みんなおんなじ反応したし、おんなじこと言ってたし。」

「全員としてきたんだ…」

「うん。なんでみんなTVないって言ったら全員がニュースのことについて言及するんだろうね?」

「…多分それ倉本くんだからだと思うよ?」

「え?どういうこと?」

「倉本くんってなんか合理性を求めてるみたいな感じがするから、TVがあることで得られるものを上げようとしたらやっぱりニュースが第一に思い浮かぶんじゃない?」

「………なるほど、そうだったのか!」


 すごい、初めて合点がいった!


「赤坂ってあったま良いな!こりゃびっくりした!」

「しー!ここバスの中だよ!?」

「ご、ごめん」


 ここで小休止。会話は途切れる。

 これがずっと続いて、このままバスが駅に着いたら赤坂さんは沈黙が平気なタイプ。そうじゃなかったら苦手なタイプだ。

 この検証中に、ここまで得た情報を整理しておこうか。まず、予想外に赤坂さんは頭が良い。俺の言う頭が良いとは、頭の回転が速く、問題に対して今持っている情報をもとに考察する能力のことだ。

 赤坂さんは俺の疑問に対し、俺への印象という普通なら気づかない、あいまいで形のないものを材料にして答えを導き出して見せた。

 正直に言おう、赤坂さんは俺よりも頭のいい人間だ。俺のより100パーセント赤坂さんの方が潜在能力が高い。なぜなら、俺は他人への印象を自覚することができないからだ。

 俺は著しく自分を見るという事に苦手意識を感じている。1話で言った通り、俺は自己嫌悪を責任転嫁という形で解決したので、現実を見るのが怖いのかもしれない。

 なので、俺は自分のことを自分がとった行動を元に知る。曖昧なものはその中に入って来ない。

 これはどんな人でも実行可能だ。なぜなら、見たものを統計的な知識と結びつけるだけでいいからだ。

 対して、赤坂さんが行ったことは、人によって変わってくる。訓練方法が曖昧だからだ。よって、潜在能力という面では、確実に俺よりも高いと言える。

 ここで困ることが発生した。それは、たとえ赤坂さんの思い出話を聞いても、俺が100%道筋を理解できない可能性があることだ。


 いや、これは逆にチャンスだとも言えるはずだ。腹を割って話せるようになれば、俺も赤坂さんから影響を受けるようになるだろう。

 そうすれば、俺は遂に自分のストーリーすら面白く思えるようになるはずだ。


「お、ついたな。赤坂は電車?」

「うん。倉本くんも?」

「いや、俺はすぐそこだから。」

「そっか。じゃ、ばいばい。」

「うん。ばいばい。」


 別れの挨拶をしてから、一つ決心した。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 作者の一言。


 ごめんなさい、きのう投稿し忘れました。言い訳もできません。今日は2話あげました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る