第3話 赤坂視点

 しばらく宿題をしていると、ちょっと視線を感じたので倉本くんのほうを見ると、ばっちりと目が合った。すると、すぐに視線をそらした。

 え?どういうこと?

 私は自分が美人だっていうことに自覚がある。てかない女子なんて多分いない。だから、男子と目が合って目をそらされるなんてことはよくあることだ。しかし、倉本くんに関しては意外だ。あんなに目を合わせてきてたのに、照れたみたいに目をそらすなんて。今とさっきとでどこが違うの?なぞだ。謎が深すぎる。


「よし、宿題終わった!キリのいいところまで行ったら帰ろうか。」

「もう大丈夫だよ。帰ろ!」

「気にしないでいいんだよ?」

「ほんとに大丈夫。」

「そうか。赤坂もバス?」

「うん、私もバスだよ。てか、宿題があんまり遅くなりすぎるとバスめっちゃ遅くなるんじゃない?」

「あー、確かに。もう高校からはやめたほうがいいかな?」

「うーん、そうかもね。部活とかどうすんの?」

「俺は軽音部かな~。ギターとか楽しそう。」

「へ~、いいじゃん。」

「赤坂は?」

「私はそうだな~、テニス続けようかな。」

「中学からテニスやってたの?」

「うん。結構いいところまで行ってたんだよ?県大会まではでたし。」

「へ~!すご!」


 そういいながらおもむろに手を持ち上げられ、手の平を触られた。え?なんで?


「すごい手!受験はさんだはずなのにまだ固いな!」

「女子にそういうこというのよくないぞ?」

「そうなの?でもすごいかっこいいと思うよ?だって、実力とかは才能とかで差が出たりするけど、この手の皮とか筋肉とかはみんな平等に強くなるじゃん。実力以上に努力の証でしょ?」

「まあ確かにそうだけど。」


 なんだ?倉本くんは私のこと狙ってるのかな?普通こんな手をわざわざ見てほめるなんてことするか?いや、しない。うーん、どういうことなんだろう。アプローチが下手すぎる男の子なのかな?

 でも、ほめるポイントはあってるんだよな~。もっと自然な流れだったらちょっと傾いてたかもしれない。でも、下手すぎるんだよな~。かなり無理やりだったし。彼は本当によくわからない存在過ぎる。

 しばらくの沈黙の間に考えを巡らせていると、倉本くんがおもむろに口を開いた。


「この山夏になったらぜったいめっちゃ虫出てきそうだよな。」

「うぇ、やだな~」

「中学の夏休みにこの学校の見学に来たけど、トイレに3匹くらいげじげじいたもん。」

「やば。キモ!」

「やばかった。小便してるときに上見たら真上にげじげじいたからね。ビビりすぎてちびったもん。」

「そりゃ小便中なんだから当たり前でしょうが。」

「あ、ばれた?」

「ばれたってなんなんだよ。」

「いや、ちょっとスベったから切り抜けようと思って言いました。」

「もう手遅れなんよ。」

「ゆるして。」

「だめです。」

「そんな~」

「ほら、バス来たよ。乗るよ。」


 先に乗った倉本くんが当たり前みたいな感じで手を貸してくれた。私の中でまた倉本くんが私を口説こうとしているのではないかという懸念が再燃した。でもあんまり顔がタイプじゃないんだよな~

 てかこのタイミングでさっきのことをいうべきだろ。でも、倉本くんが口説こうとしていたとして、こんなチャンスをどぶに捨てたような行動をするとは思えないんだよな~

 でもほかの目的なんて思い浮かばないし。


「初対面で聞くべきだったのかもしれないんだけど、赤坂はなんか趣味とかあんの?」

「趣味?そうだなあ、趣味かあ。なんかいっぱいあるからこれって絞れないんだけど、音楽鑑賞かな?最近はボカロとかも聞くようになってきたよ。」

「あー、チックタックから?」

「そうそう!倉本くんも入れてるの?」

「いやー、入れてはないんだけど、大体わかるよ。コメント欄でたまに見るもん。」

「あー、でもみんなが言ってるようなそんな悪いもんじゃないと思うよ?」

「まあ確かにあの短い動画をガンガン見られるっていうのはすごい革命的だなって思うけどね。」

「倉本くんは結構反対派なの?」

「うんまあ、チックタックを入れること自体がまずナンセンスだと思うよ。ただ見てるだけの人は特にね。」

「えー、なんで?」

「まずあれどちらかっていうと受動的に見るもんだから、IQの低下が起こりやすいんだよ。」

「そうなの?」

「そうだよ。TV見てんのと同じ。俺んちせっかくTVないのに、チックタックなんて入れたらむだに不自由を被ったことになる。」

「え?倉本くんTV家にないの?」

「うん。なんか集金されんのがなんか癪だったんだって。」

「え~、ニュースとかどうしてんの?」

「見てない。」

「いや、見たほうがいいでしょ。」

「いやいやいやいや、てかなんでみんなニュース見てんのかわからん。」

「情勢とかわかったほうがいいんじゃないの?」

「そんなもん他の人は見てるんだから、友達と話してれば勝手に情報は手に入るじゃん。」

「いや、いるでしょ」

「まあいいや。こういう話って全員としてきたし、みんなおんなじ反応したし、おんなじこと言ってたし。」

「全員としてきたんだ…」

「うん。なんでみんなTVないって言ったら全員がニュースのことについて言及するんだろうね?」

 あれ?私もなんで言ったんだろう?

 ああ、たぶん倉本くんが実利を求めているようなイメージを持っているからだ。だから見なきゃ困ることがあるって言おうとしたんだ。

「多分それ倉本くんだからだと思うよ?」

「え?どういうこと?」

「倉本くんってなんか合理性を求めてるみたいな感じがするから、TVがあることで得られるものを上げようとしたらやっぱりニュースが第一に思い浮かぶんじゃない?」

「………なるほど、そうだったのか!」


 すごい、今までで一番いい笑顔をここで見ることになるとは。大きく口を開けて面白がっている。初めてかわいらしい笑顔が見えた。


「赤坂ってあったま良いな!こりゃびっくりした!」

「しー!ここバスの中だよ!?」

「ご、ごめん」


 すごい、裏表を感じさせなさすぎる表情の変化だ。表情豊かで、百面相でもしてるのかってくらいころころと表情が変わる。


「ははは。」


 笑いがこみあげてきて、私は小さく笑った。

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