第2話 倉本視点 後半

 放課後、赤坂さんのほうを見ると、知らない女の子と話をしていた。なんだ、やっぱり友達はいたのか。

 俺が昨日、朝の段階で赤坂さんに話しかけたのは正解だったわけだ。話しかけてなければ、相談する相手は彼女だっただろう。昨日の俺を誉めてあげたい。この圧倒的に弱そうに見える服装に、最高の行動力。これがなければもっと遠回りすることになっていただろうから。

 しかし、今俺が話しかけてもいい結果にはならないだろう。俺は陰キャで、弱そうな見た目をしている。そして、赤坂さんは高嶺の花。俺のことを目の敵にするやつがいてもおかしくない。幼馴染の一件で似たようなことがあったので、確信している。

 できれば人がいなくなってからのほうがいいだろう。

 じゃあ、俺はとりあえず宿題でも終わらせときましょうかね~


 残って課題をやっていると、集中していたせいもあって、赤坂さんが近づいてくることに気づかないままに、話しかけられた。

「学校で課題やるの?」

 はっ、しまった!待ってたというわけにはいかないし、いつもこうするようにしていると言うしかなくなる。わざわざ学校で宿題を終わらせる理由を何とか作って言い訳しなければ!

「ん?ああ、そうなんだよ。俺ちょっと忘っぽいところあるから、もう最速でやるようにしてるんだ。」

「えー、忘れっぽいなんて到底思えないけどなー。」

「いやいやいや、それは優先順位の問題だって。」

「優先順位?どういうこと?」

「別に科学的な根拠は知らないんだけど、人間って多分無意識に情報を覚える優先順位があって、個人差があるんだと思うんだ。」

「倉本くんのなかではその優先順位は生活保護とか自己破産がかなり優先的だって判断してるってこと?」

「まあそういうこと。」

「どんな風に育ったんだよ!」

「いや、怖くない?いつ何が起こるのかわからないのにその対処法をしらないで生きていくって。」

「まあそう言われると怖いなって思うけどさ。」

「で、すっごいやりたくないし、やらなくても死ぬことはない宿題の情報は忘れやすいってわけだ。」

「へー、すごいね。ちゃんとそういうこと自覚して対策してるなんて。」

「だろ?俺も自分ですごいなあって思うもん。」

「…なんかイメージ的に謙遜するイメージだったわ。」

「え?俺多分謙遜したことないよ?」

「いや、朝してたじゃん。」

「え?そうだっけ?」

 ふうううう、あっぶね!なんかごり押しで何とかなったか?でも、無駄に説得力のある話をできた気がする。我ながらすごいアドリブ力だ。いや、普通みんなアドリブで話を展開するのか?

「倉本くんって勉強できるほうなの?」

「んー、どうだろ。でもこの学校では結構できるほうなんじゃないかな?一応特待生だし。」

「え!?すご!じゃあ私に勉強教えてよ!」

「いいよ。じゃ、BEAM交換しない?」

「うん!いいよ!」

 うーん、ほんと最近うまく行き過ぎてこわい。マジで思った通りにというか、思った以上にうまくことが運ぶ。

「よし、これが俺ね。」

「倉本って、めっちゃそのままだね。」

「そう。でもこのほうがみんな楽でしょ?なんか久しぶりに連絡来たときとか、明らかに苗字だから俺に関する記憶を全てを忘れていても自然に話できるし。」

「まあ確かにそうだけど。」

「でも、このアイコンめっちゃかわいいでしょ?」

「え?ははは。そうだね。」

 このアイコンには自信がある。なぜなら、昔俺の友達にもらったやつだからだ。俺にはそういうセンスはないが、友達に任せればそんなこと関係なくなるからだ。

「ま、よろしく。俺の名前フルネームで送っとくわ。」

「わかった。私も送っとくね。」

 BEAMの会話に「赤坂芽衣です。よろしくね~」と書いてある。よし、これで下の名前を忘れることはなくなったな。

「じゃ、私もここで宿題していこうかな〜?」

「おお!一緒に頑張ろうぜ!」

「そんなに喜んで、寂しかったの?」

「そりゃそうでしょ。みんな一緒に帰ってるのに俺だけ一人で学校で課題してるんだぜ?」

「それでもここでやるんだ。」

「うん。まあさみしいとかよりも成績悪いほうがよくないし。」

「そうなの?高校の成績ってそんな大事なもんだったっけ?」

「あー、まああれだ。学費払ってもらってるのに悪い成績とったら罪悪感的なものが生まれるじゃん?」

「まあ確かに。」

「そんなことよりさっさと終わらせよう。赤坂は全部やってから帰る?」

「いや、途中まででいいや。結構遅くなっちゃいそうだし。」

「そっか。」

 ふむ、ここで赤坂さんの性質についてまた一つ知ることができたな。

 昨日必死に勉強したおかげで楽勝な宿題を片手間に終わらせながら今日得た情報を整理する。

 赤坂さんはなぜいま俺と一緒に勉強してくれているのかについて考えてみよう。おそらくだが、赤坂さんが最初に話しかけてきた目的は俺とBEAMを交換するためだ。その根拠としては、昨日の会話で俺が初めて話しかけたときに、明らかにビビっていたからだ。

 それはつまり、大した用がなければ他人に話しかけるようなタイプではないし、話しかけるタイプでもないということ。そして、会話で俺に話しかけてきたときの言葉は、「学校で課題やるの?」だ。明らかに内容が薄すぎる。それが気になっただけでは他人に話しかけないだろう。

 つまり、彼女は俺に対してかなり良い印象を抱いているということを示している。でなければ話しかけない。そして、そんな俺とは連絡手段がない。今はBEAMだけでなく、様々な便利で簡単に連絡を取れるツールがたくさんある。そして、高校一年の春。しかも休校明け。つまり、横のつながりを欲しがる時期だ。

 以上より、赤坂さんは俺とBEAMを交換するために話しかけたということになる。ルックスがここまで整っているのに受け身にならずに話しかけてくるということは、おそらく中学では陽キャだったんだろうなあ。陽キャは陽キャでいろんな人とかかわっているので面白い人生を送っているだろう。これはやっぱり面白い話が聞けるだろうなあ。


 なんて考えていると、ふと目が合った。気まずかったので、さっと目をそらした。

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