第2話 倉本視点 前半


 さてと、なぜかうまく赤坂さんと接点を持つことができたその日の放課後、頭の中をさえわたらせてこれからどうやって信頼を深めていこうかと思案にふける。

 まず、こういう時に必要なのは、自分に焦点を向けるのではなく、相手に焦点を合わせるということだ。こういうのは大抵初恋などで理解するのだと思う。ちなみに俺は初恋は普通に散った。昔は近しい存在だった幼馴染を好きになったのだが、玉砕覚悟で告白したその時には高嶺の花になってしまっていた。

 俺もまた初恋で失敗した経験で学んだのだ。なぜ俺が失敗したのか考えると、結局俺が俺のことを中心に考えていたからだ。

 初恋をしているときの考え方では、

「Aちゃんと俺は幼馴染で、そこそこ話す頻度も高く、仲のいい状態だ。それならば、告白して成功する確率は高いのではないか。」

そう考えた。しかし、ここには大きすぎる思考の穴があった。

 これは俺とAちゃんの関係性であり、Aちゃんの状況を把握していない。

 この状態を夜道に例えよう。俺は地点Aに向かおうとしている。そこで、さっき俺がAとの関係を把握した。ここでは、Aから天高く光の柱が立っている状態だと思ってくれればいい。そして、俺はその光の柱しか見えない状態でまっすぐに突っ走った。すると、そこには深い渓谷があり、暗かったがためにそれに気づかずに落ちてしまった。

 まあ、こんな感じで俺は関係性ではなく、相手の状況と俺の状況を調べるようにした。関係性はその中の一つの要素でしかないということだ。

 今回の目的地点は赤坂さんの信頼を得ることだ。では、赤坂さんの状況をいま持っている情報から考察してみよう。

 おそらく今頃、親に生活保護のことについて話して、多少安心していることだろう。そして、次の悩みを考えてみよう。おそらくだが、生活保護だけで万事解決にならないくらいのことはわかるだろう。その根拠としては、未知のものに対して恐怖心を抱く性質があるというところだ。ま、言っちゃえば普通の思考回路の持ち主だ。俺もまた普通の思考回路を持つ凡人だ。そこで、彼女に感情移入して考えてみよう。

 学費の問題を解決する方法はある。みんな知っているであろう、奨学金だ。また、私立高校なので、特待生になることもできる。うちの高校の場合、特待制度には2種類あり、一つは学費半額、もう一つは無料だ。幸いにも、俺は無料になるタイプの特待生だ。

 これを利用して、特待生を目指すように何とか誘導することができれば接触する時間を増やすことができるはず。

 よし、とりあえず話す機会が必要だな。できれば自慢する形は避けたい。しかし、最悪の場合は自慢という手段をとるしかなくなるかもしれないな。

 今日の残りの時間やるべきことは勉強の予習復習だろう。そう考え、分厚い数学の参考書を開いた。


 次の日、朝学校に少し早めについておく。結構早い段階で赤坂さんが教室に入ってきた。とりあえず伸びをして、今暇であることをアピールしておく。すると、すぐに話しかけてきてくれた。

「おはよう!昨日はどうもありがとう!」

「おはよう。完全に立ち直ったみたいで良かったよ。」

「うん!倉本くんが相談に乗ってくれたおかげだよ!」

「はは、別に俺はなんもしてないって。杞憂を指摘しただけ。」

「それでも、すごい楽になったから、ありがとう。」

「じゃ、お礼は受け取っておこうかな。」

 ここでは絶対に恩着せがましくしてはいけない。なぜなら、赤坂さんも俺がなんもしてないことは重々承知だからだ。

 しかしこの後、俺が全く想定していなかったことを赤坂さんが口にした。

「はは!倉本くんって面白いね!」

「へ?どこが?」

 俺が面白いだと?そんなわけない。俺は笑わせようとした行動はしてないはずだ。なぜなら、頑張って考察しても笑いの原理だけは理解できなかったからだ。何が赤坂さんに面白いといわせたんだ?

 考え込んでいると、赤坂さんがヒントをくれた。

「なーんか話してると違和感を感じるんだよね〜」

「え?なんで!?」

「わかんない!」

 違和感?俺はおかしい会話をしているのか?確かにお礼を言われるだろうと予測して、応対について対策はしたりしていたかもしれないけど、そんなに目立っているのか。でも、君割るがられているわけではなさそうだし、このままいくべきだろう。

 なんて風に考えてふと周りを見ると、赤坂さんはもう席に戻っていた。


 授業中は必死に勉強した。これからおそらく勉強を教えることになるはずだ。ここで大事なのは、先生の解説の良い部分を覚えて、悪い部分を俺なりにわかりやすく改変する事。だから、ノートにはよかった部分をできるだけそのままに、悪かった部分をすぐに改変して書く。めちゃくちゃ大変だった。

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