第2話 赤坂視点

 その日のうちに、親に生活保護の申請について話した。

 お母さんはハッとした顔をして目の輝きを取り戻していたが、お父さんは元から知っていたらしい。

 全く、知ってたんなら安心させるためにきちんと言っといてほしかった。

 とはいえ、お父さんも長年の夢だったラーメン屋が潰れてショックだったらしいので、まだ申請してないらしい。さっさとしろ。怖いでしょ。

 今収入を得ている人は居ないので、多分受給できるのだそうだ。ただ、学費が大変なのは変わってないらしい。私が高校を卒業できるくらいまでの貯金はあるらしいので、高校はどうにかなるそうだ。姉は奨学金を借りる量を増やすらしい。

 何はともあれ、私は落ち着きを取り戻した。別に倉本くんに助けられたわけではないけれど、絶望している時に声をかけてくれた事には感謝している。明日ちゃんとお礼を言おうと思った。


 次の日、すぐに倉本くんを教室に見つけては、すぐにお礼を言った。

「おはよう!昨日はどうもありがとう!」

「おはよう。完全に立ち直ったみたいで良かったよ。」

「うん!倉本くんが相談に乗ってくれたおかげだよ!」

「はは、別に俺はなんもしてないって。杞憂を指摘しただけ。」

「それでも、すごい楽になったから、ありがとう。」

「じゃ、お礼は受け取っておこうかな。」

 普通、照れながら言いそうな発言をしながら、めちゃくちゃ目を合わせてくる。

「はは!倉本くんって面白いね!」

「へ?どこが?」

 ここでようやく私の目から目を逸らして、腕を組んで考え始めた。

「なーんか話してると違和感を感じるんだよね〜」

「え?なんで!?」

「わかんない!」

 なんとなくだけど、修正してほしくなかったので濁しておいた。彼が悩んでいる姿を見ると少し面白い。


 授業中、結局集中出来なかった。高校に入ったからと言って授業が楽しくなるのかといえば、答えは否。良い子守唄でしかなく、目がうつらうつらとしていた。ふと倉本くんを見てみると、昨日よりもなんだか黒板を見る回数が増えている気がする。昨日はあんまり集中出来ていなかったのかもしれない。相変わらず普通だ。

 そういえば、連絡先を交換してなかった。しといた方が良いかな?高校生活を続けられるってことは確定したけれど、給付制の奨学金を勝ち取らなければ私は未来に大きな負債を背負ってしまう事になる。

 そうなる前に意外と頼り甲斐がある彼がいると心強い気がする。後でBEAM交換しよっと。


 放課後、昨日は話しかけて来なかった友達の成島なるしま 紗也香さやかが私に話しかけてきた。

「なんか今日は元気そうだね。昨日は凄い話しかけにくい感じになっててびっくりしたよ〜」

「いや〜、なんか凄い杞憂してたみたいで、本当やばかったんだよ。」

「芽衣ちゃんが元気になったみたいで良かった良かった〜」

「そうね。まあよかったよ。」

 でも根本的な解決は微塵もしてないんだよな〜。あ、そうだ。倉本くんに勉強教えてもらおうかな。どれくらい勉強できんのか知らないけど、なんだかわかりやすく教えてくれそうな気がした。

「で、何があったの?」

「えー、聞くのー?」

「だって、安心した顔してるんだもん。もう終わったんでしょ?」

「いやー、全然終わってないんだよねー。」

「えー?そんなに言いたくない?」

「そうじゃないって。すっごい気まずくなりそうなんだもん。」

「なに?彼氏に振られた?」

「そんなんじゃないって!」

「まあいいや。もう帰る?」

「いやー、一応職員室いったほうがいいかもしれないからさ。」

「そうなんだ…私はちょっと先帰っとこうかな。」

「おっけー、じゃあね。」


「ばいばい。」

 ふう、何とか会話が終わった。教室を見回すと倉本くんは今日出された課題を終わらせているようだった。

 良かった、まだいたんだ。

 さやかが帰ったのを確認してから、倉本くんに話しかけた。


「学校で課題やるの?」

「ん?ああ、そうなんだよ。俺ちょっと忘っぽいところあるから、もう最速でやるようにしてるんだ。」

「えー、忘れっぽいなんて到底思えないけどなー。」

「いやいやいや、それは優先順位の問題だって。」

「優先順位?どういうこと?」

「別に科学的な根拠は知らないんだけど、人間って多分無意識に情報を覚える優先順位があって、個人差があるんだと思うんだ。」

「倉本くんのなかではその優先順位は生活保護とか自己破産がかなり優先的だって判断してるってこと?」

「まあそういうこと。」

「どんな風に育ったんだよ!」

「いや、怖くない?いつ何が起こるのかわからないのにその対処法をしらないで生きていくって。」

「まあそう言われると怖いなって思うけどさ。」

「で、すっごいやりたくないし、やらなくても死ぬことはない宿題の情報は忘れやすいってわけだ。」

「へー、すごいね。ちゃんとそういうこと自覚して対策してるなんて。」

「だろ?俺も自分ですごいなあって思うもん。」

「…なんかイメージ的に謙遜するイメージだったわ。」

「え?俺多分謙遜したことないよ?」

「いや、朝してたじゃん。」

「え?そうだっけ?」

 朝の「別に俺はなんもしてないって。杞憂を指摘しただけ。」ってのは本心だったってことかな?いや、さすがににないか。

「倉本くんって勉強できるほうなの?」

「んー、どうだろ。でもこの学校では結構できるほうなんじゃないかな?一応特待生だし。」

「え!?すご!じゃあ私に勉強教えてよ!」

「いいよ。じゃ、BEAM交換しない?」

「うん!いいよ!」

 急いでバッグからスマホを取り出して、QRコードを出す。よかった!すっごい自然な流れで、しかも倉本くんから交換を提案してくれた!

「よし、これが俺ね。」

「倉本って、めっちゃそのままだね。」

「そう。でもこのほうがみんな楽でしょ?なんか久しぶりに連絡来たときとか、明らかに苗字だから俺に関する記憶を全てを忘れていても自然に話できるし。」

「まあ確かにそうだけど。」

「でも、このアイコンめっちゃかわいいでしょ?」

「え?ははは。そうだね。」

 アイコンは仮面の男が青空のもとを陽気に歩いているドットのイラスト。なんか独創的なセンスしてるな…

 まあ見ようによってはかわいいのか?

「ま、よろしく。俺の名前フルネームで送っとくわ。」

「わかった。私も送っとくね。」

 BEAMの会話には「倉本蒼治です。よろしく~」というメッセージが届いていた。

「じゃ、私もここで宿題していこうかな〜?」

「おお!一緒に頑張ろうぜ!」

「そんなに喜んで、寂しかったの?」

「そりゃそうでしょ。みんな一緒に帰ってるのに俺だけ一人で学校で課題してるんだぜ?」

「それでもここでやるんだ。」

「うん。まあさみしいとかよりも成績悪いほうがよくないし。」

「そうなの?高校の成績ってそんな大事なもんだったっけ?」

「あー、まああれだ。学費払ってもらってるのに悪い成績とったら罪悪感的なものが生まれるじゃん?」

「まあ確かに。」

「そんなことよりさっさと終わらせよう。赤坂は全部やってから帰る?」

「いや、途中まででいいや。結構遅くなっちゃいそうだし。」

「そっか。」

 私はカバンからノートと数学の問題集を取り出して、倉本くんと一緒に宿題を始めた。

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