第1話 倉本視点
俺は、とある山奥にあるような私立高校に入学することになった普通の男子高校生だ。この高校に入った理由はただ第一志望に落ちたからだ。第一志望の高校は偏差値70後半の超エリート高校だった。正直チャレンジ受験だった。それに、かなりやる気も無くしてしまっていた。
幼少のころからよくいじめを受けていた。いや、暗い話じゃないよ?そして、俺の親はお金持ちだった。その二つが重なり、自分でも正直ひねくれた人間に育ったなあと思う。
小さいころはよくいじめられ、すぐに先生にチクっていた。なんでみんなはいじめられてもチクらないのか意味が分からなかった。なんの疑問も持たずにチクっていた。てか今でもなんでチクらない人間がいるのかわからない。
おっと、話が脱線した。そんな風にチクっても、小さい子供ってのはいじめをやめたりはしない。ずっと俺に突然殴りかかってきた。
きっとその子は自分より弱い存在が欲しかったんだと思う。でも、そんな存在になってあげるほどの余裕は当時の俺にはない。何度も何度もチクり続けた。そして、さすがに堪忍袋の緒が切れたのだ。
これは、俺が殴られた後に先生にチクった後のことだ。
「〇〇くん、そうじくんにごめんなさいは?」
「ごめんなさい。」
「いやだ。」
そう、俺は初めて謝罪に初めていやだって答えたのだ。そういえば、謝罪を受け取らないときっていやだって返しであってるのだろうか。多分間違ってる気がする。それに、ごめんなさいってどういうことだ?動詞なの?え?ネイティブにもわからない日常会話って存在するの?
また話が脱線した。俺が謝罪を断った時、先生は予想外の行動に出たのだ。
「こら!そうじくん、許してあげなさい!」
これが俺の記憶の中で一番古いであろう記憶。ごめん、さすがに誇張した。でも、5番目くらいには古いはずだ。
これ今でも思うけど俺悪くなくね?謝罪を受け取るかどうかは俺の自由だったと思うんだけど。まあ、教育的に謝罪を受け取れるような器の大きい人間に育てるためにやったことなんだろうけど。
でも、幼稚園児の俺にはそんな大人の事情なんて理解できないわけで。これによって、俺のヒーローにあこがれていたような純粋な心にひびが入ったのだ。この世には正しくないことがはびこっていると強く意識した。
とはいえ、この場面ではやはり彼を許さざるを得なかったから、いじめに関してはなんの解決もしていない。そして、俺はもう先生を信用していないので、親に相談した。そしたら、俺のお父さんがいったんだ。
「なんでやり返さへんの?」
はっとしたね。その発想はなかった。その次の日、彼に殴られたあとに自分も殴り返してみたのだ。そしたら、先生からのおとがめは俺にはなかった。これさえなければ今の俺はなかったはずだ。マジ感謝。
なんか暗い思い出を上げたから、今の状況に不満をもってそうに聞こえてしまっただろうけど、めちゃくちゃ満足している。
俺はひねくれている。それに対して嫌悪感を覚えていたこともあった。まあ、自己嫌悪は多分日本の全中学生は経験したことあると思うけど。でも、その解決方法って人によるとおもうんだ。
俺の解決方法は、極限まで自分の性格や、自分の性質のルーツを探ることだった。
ま、悪くいえば責任転嫁だ。でも、きちんとすべてのことには理由があるわけで、これはマジでみんなやったほうがいいと思う。これのおかげで他人を嫌いになることすらなくなるのだ。
この他人が嫌いにならない理由をすこしわかりやすく説明しよう。
例えば、野原にウサギがいたとしよう。そのウサギは、生まれてからすくすくと成長し、ようやく親離れをしたばかりで、頑張って一人で生きていこうと決心したばかりの若いウサギだ。そこに、タカが飛んできて、あっという間に殺して連れ去ってしまった。
どうだろうか。俺は全くなんも感じないが、人によってはタカにむかつくのではないだろうか。さて、そこにタカの情報を加えてみよう。
そのタカは巣をもっていて、巣ではつがいが卵を温めている。そのつがいのために、どうしてもおいしい肉を届けてあげたかった。そして、野原でさまようこと1時間、ようやく見つけたウサギを狩り、巣に持って帰った。
どうだろうか。突然なんだかほっこりするような気がしないだろうか。俺には常にそんな状態なんだと思ってくれればいい。
自分に不愉快な行動をする奴がいても、だいたいの理由が察せるので、怒る気になれないのだ。それどころか、人とかかわるのが楽しくて仕方がない。こいつはたぶんこういう人生を送ってきたんだろうなあなんて風に思うと、物語を読んでいるような気分になるのだ。その物語が面白くて仕方がない。
まあ、面白いのは当たり前だ。なんせ、小説や漫画は作家が人生のうちのほんの一部をつかって頑張って書いたもんだ。でも、人生は年齢どうりの時間すべてを費やし、必死に作り上げてきたものだ。面白くないはずがない。
そこで俺は、そんな面白い物語を堪能させてもらったお返しに、おそらく悩んでいるであろうことを一つ解決してやるようにしている。
え?他人を見下してるみたいだなって?見下してはいると思うよ。でも、それもまあ自分の要素の一つだし、他人を見下してるからこその長所もあるわけだしな。具体的には、他人の意見よりも自分の考えを優先できることだ。
じゃなきゃこんな年で株始めようなんて思わん。そう、この俺はこのコロナを機に株で荒稼ぎ(未成年にしては)したのだ。
コロナが発見されたその瞬間に口座を作り、あんまり大きくないし、小さくもないような飲食店の株を空売りして稼ぎまくったのだ。ただ、俺の凡人の脳ではITエンジニア教育があんなに伸びるとは思わなかったね。
だが、空売りはもう二度とやらないと思う。空売りって上限なく損する可能性があるんだよ。あの時は頭がおかしくなってたんだ。修学旅行なくなるって確信してて、ただで起き上がってたまるかって躍起になってたんだ。
まあ成功したから結果オーライだけど、正直俺が手を出すには元手が少なすぎた。で、今はPCをかってアプリ作りにいそしんでいるわけだ。全然成功する気せんけど。
でも、そのおかげで2回目の緊急事態宣言中は超楽しかった。みんなが足踏みしてる中俺だけめっちゃターボしてる感があって楽しかった。第一志望落ちたけどすごい幸せな気分だった。
そして今日久しぶりに登校したら、なんか一人だけめちゃくちゃ落ち込んでる人がいた。
すごいわくわくした。そうそうそうそうこれこれこれこれ。この子絶対面白いルーツ持ってる。別に落ち込んでるからとかじゃなく、顔がめちゃくちゃいいからだ。さらっさらな黒髪ショートカットの女の子だ。休校になる前から面白そうだとは思っていたんだ。フツメンな俺では想像もできないような過去を持っているに違いないってね。
しかも、この子はとっても落ち込んでいる。つまり、とっても取り入りやすいってことだ。あんな明らかに落ち込んでたら話しかけるわって言いながら話しかけられるし、それを解決してやれば信用を得られる。その信用があれば思い出話もいっぱいしてくれるかもしれない。
顔がニヤつくのを必死に抑えながら、声をかけた。
「どうしたの?顔色悪くない?」
声をかけると、明らかにおびえた様子で返事をしてくれた。俺の顔ってそんなこわいか?
「だ、大丈夫だよ。」
しかし、受け答えができればこちらのものだ。この「なんかおまえハーレム系小説の友人キャラみてえな顔してるな。」って言われ続けてきた顔で圧倒的味方感を醸し出し、いい感じに信用をえるのだ。
「うーん、全然そうは見えないけどね。」
できるだけ困った顔をして話す。表情筋を全出動させている。
しかし、全然なんにも話そうとしてくれない。当たり前だ。個人的に話しかけたことはこれが初めて。
とはいえ、この様子的にかなり致命的な状況なのだろうということはまるわかりだ。そのために1時間目の間にある程度あたりをつけておいたのだ。
「学費がなくなったのか?」
これはコロナの影響でワンチャンあるかなと思ったからだ。授業中に考えたのだが、一番可能性の高い悩みは人間関係だ。友達となにかあったか、もしくは中学時代の彼氏と別れたか。これくらいが一番ありそうだなあと思った。
しかし、今の俺と赤坂さんの関係はただのクラスメイト。そんな人間に人間関係の悩みを相談するか?いや、しない(反語)。であるならば、正解率がいくら高くとも、利益を生む可能性はほぼない。次に、コロナの影響だった。俺もコロナの影響はめちゃくちゃ受けた。いいようにも、悪いようにも。
たぶん悩みのタネは人間関係だろうけど、まあ、外れる前提で話しかければいい。そう思ってさっき「学費がなくなったのか?」と聞いたのだ。
しかし、明らかに図星みたいな反応を示した。え?本当にそうなの?もしかしてコロナのせい?
そう思うと、無駄に罪悪感が生まれてきてしまった。別に俺が得した側だからって気にする必要ないはずなのに。
ま、まずい。とりあえずお茶をにごして撤退しよう。
「あー、えーっと、じゃあね。」
まじか、これどうしよう。図星ついたのか。いやしかし、どうすればいいんだ?その日はノートに自分の思考を整理しながら書いた。あてられたときはめっちゃ焦った。
結局対策案が思い浮かばないままに放課後だ。結局もうあきらめて次の機会を待つことにしたのだ。ところが、赤坂さんは話しかけてきた。
「ねえ、今朝声かけてくれたじゃん?」
「え?あ、うん。」
「ちょっと聞いてほしいことがあってさ。」
「うん。」
やったぜ!と言いたくなる衝動を抑えながら、聞く体制をとった。
「実はうち、コロナで失業しちゃってさ?」
「うん。」
「入ったばっかりなのにわたしもうこの学校退学しなきゃいけないかもしんないの。」
「え?」
それはいただけない。何とか解決してほしいんだけど。てか、なんでこんなことを言っているのだろうか。
「だから、あの、お金がないせいで。」
おっと、アワアワし始めてしまった。なんか誤解されたのかな?
「いや、生活保護とか申請したらいいんじゃないの?」
「え?」
「いや、生活保護。」
「そんなのとれるの?」
「多分取れるでしょ。じゃなきゃ今日、日本のどこかで餓死者が出てるでしょうよ。」
「でも、審査厳しいってきくし。」
「もし無理でも失業保険は効くでしょ?」
「うちは自営業だったから。」
「あー、じゃあ失業保険は無理なわけか。」
「うん。」
「もうやばかったら休学するしかないだろうね。」
「休学?」
「そう、休学。多分休学開けは浮くことになるかもしれないけど、退学するのはちょっと微妙なんじゃないかな?俺もあんまりよく調べてないからわからんけど。」
「でも、このままじゃ生活もままならないかもしんないし。」
「自己破産が怖いってこと?」
「うん。」
「まあ確かにいくつか人気の職種にしばらくつけなくなるしなあ。」
「どんな感じなのかしってるの?」
「え?いや、特別詳しいわけじゃないよ?ちょっと調べたことがあっただけで。」
「つけなくなる仕事ってどんなのがあった?」
「どんなだったかなあ。なんか多分一部の資格?が無効になるんじゃなかったかな?確か弁護しとか無理になったはず。」
「しばらくってどれくらい?」
「え?えーっと真っ当に生きてればどれだけ長くても10年だったと思う。」
「そうなのか。」
ここまで話すと、ようやく安心してきたらしい。
「ちょっとは楽になった?」
きちんと恩を意識させておく。俺はただでは起き上がらないからな。まあ、転んでないんだけども。
「うん、ちょっと楽になったかも。」
「そりゃよかった。」
本当に良かった。なんかよくわからんがなぜか近づくことができた。よし、今日はもうなんか疲れた。早めに寝て判断能力を回復させよう。
あ、そうだ。
「赤坂さん、ばいばい。ちゃんと寝なよ?多分いま免疫力落ちてるだろうから。」
「わかった。」
会う機会が減るのはあんまり美味しく無い展開だからな。睡眠は食事と同じくらい大事だ。
ボロが出ないようにそそくさと帰る支度をして、家路についた。
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