妹と大型バッテリー
プチッ
そんな音がして部屋の明かりが消えた。停電だろうか? 窓の外では酷く雨が降っていて、雷も鳴っているので変電所あたりに落ちたのだろう。幸い自室のPCにはサージガード付のコンセントに挿しているのでサージで破損する恐れはなかった。
贅沢を言えば上位の
「お兄ちゃん! 停電ですよ! 怖いです!」
そう言いながら俺に抱きついてくる睡。神をも恐れぬ妹がたかだか高電圧くらいにビビるはずもないはずなのだが俺から離れてくれなかった。
「暑苦しいんだが……」
「もうすっかり涼しいじゃないですか?」
いや、気温の話じゃなくてな……くっつかれると暑苦しいという話なんだが……
俺たちは夕方を過ぎ、日も落ちた中暗い部屋で二人きりだった。なんとも暗いと気まずいのでiPhoneを取りだした。有機ELの明かりが僅かに部屋を照らす。
「お兄ちゃん、こういうムードの時にスマホを取り出すのはどうかと思いますよ?」
「いや、だって何時まで続くのか気になるじゃん? 電力会社のページ見たいし」
アクセスが集中しているのだろう、電力会社の情報ページはサーバが落ちていた。どうやら結構広い範囲で停電をしているようだ。
ふと、画面の右上に目がいくとバッテリー表示が赤くなっていることに気がついた。
「やべ、充電しないと」
「あ、お兄ちゃん! 逃げないでくださいよう!!」
「バッテリー取ってくるだけだって!」
そうして睡を引っぺがして部屋にあるバッテリーから充電のされているものを探した。しかし、悪いことは重なるもので最近必要になることが少なかったので全部が自然放電をしてLEDが一段階まで表示されればいい方、ほとんどは沈黙を守っていた。
俺はギリギリ使えるバッテリーにケーブルを挿してひとまずしのぐことにした。
キッチンに戻ると不満げな睡が待っていた。
「お兄ちゃん、こんな日に妹を一人にするのはどうかと思いますよ?」
「悪かったって」
俺が座って手持ち無沙汰にしていると不思議そうに睡が尋ねてきた。
「アレ? スマホは使わないんですか?」
不満は無さそうだが不思議そうにしていた。
「ああ、生き残ってるバッテリーがこれだけだった」
ポチッとサイドボタンを押して充電のインジケーターが一段目しか表示されないのを睡に見せる。ほうほうと頷く睡だったがこればかりはどうにもならないだろう。最低限電話やSMSが受けられるように画面を消灯してバッテリーと一緒にポケットに放り込んだ。
何故か睡がモジモジしながら俺に言う。
「その……お兄ちゃん……私、モバイルバッテリー持ってますよ?」
「え、ああ持ってるのか。でも自分の分だけだろ? 俺はこれで停電中くらいなんとかするよ」
「まあまあ、せっかくですし私の部屋に来ませんか? 十分充電できるやつがあるんですよ!」
うーん……睡の分がなくなるんじゃないかと思うのだが、ここまで言うからには複数持ってるのかもしれない。
「俺のやつ充電しても自分のスマホも充電できるのか?」
「それはもう完璧にいけますね!」
「じゃあお願いしようかな」
「はいはい、では是非来てくださいね」
「……よっし!! お兄ちゃんを自然に部屋に誘えました!」
「何か言ったか?」
「お気になさらず、では行きましょうか!」
そう言って手を引いて睡の部屋に向かった。暗い部屋だったが睡がスマホのライトをつけたのでぼんやりと全容が見えた。
「じゃあお兄ちゃん! この中から好きなの使っていいですよ?」
そう言って睡が開けた引き出しには数個のモバイルバッテリーが入っていた。しかしその全てが結構な大きさだった。充電容量がかなりあって、一つ一つ確認したところ全てUSBPD対応品だった。
充電インジケーターは全て光っている、充電が完了している証拠だ。
「じゃあこれを貸してくれ」
俺はその中では小型のものを――もっとも一般的には大型だが――を選んでケーブルを挿した。急速充電が始まる。
「ありがと、助かったよ」
「貸し一つ、いいですね?」
俺は少し考えてから答えた。
「そうだな、確かに借りになるか……」
「うっし!!」
「でも何もできるようなことはないぞ?」
睡はモジモジして答えた。
「お兄ちゃんが停電明けまで私の部屋に居てくれたらそれでいいですよ」
「え? そんなことでいいのか?」
「ええ、こうして暗い部屋でお話しするのだって悪くないでしょう?」
部屋はスマホの画面の明かり以外は真っ暗だった。これがいい雰囲気とでも言うつもりだろうか?
何はともあれ、停電中はこれだけバッテリーがあれば問題無く過ごせるだろう。スマホを弄りながら睡に聞いてみる。
「しかしたくさんバッテリー買ったんだな……この前は一個も持っていなかったのに」
「ええ、お兄ちゃんに頼るのは悪い気分じゃないですが、やはりお兄ちゃんを助ける立場になるのも悪くないですからね!」
そう言っていたずらっぽく笑った。
「ところでお兄ちゃん、ベッドに腰掛けてくれますか?」
「え? いいのか?」
気を使って立っていたのだが……
「お願いします」
俺がベッドに腰掛けるとすぐ隣に睡が座って俺にくっついてきた。
「暑苦しいな……」
「まあまあ、バッテリーを貸したんだからこのくらいはいいでしょう?」
そう言われると反論もしづらいので俺は隣に柔らかな感触を感じながらしばらく過ごした。
長かったような気もするし僅かな時間だったような気もする。部屋の照明が瞬いて光を取り戻した。
「助かったよ睡、じゃあこれは返しておくな」
バッテリーを外して睡に返す。残念そうにしている睡だが満足してほしいものだ。
「お兄ちゃん、困った時は是非私を頼ってくださいね!」
そう明るい笑顔で言う睡だった。そうそう非常時なんて起きないと思うのだが、起こりえる惨事は必ずいつか起きるとも言うし、睡との関係を悪くする気もなかったので俺は答えた。
「ああ、困った時はまた頼りにするよ」
できることなら自室に発電機まで設置したかったところだが、予算は無尽蔵にあるものじゃないので困った時は頼ることにしよう。
スマホを見るとレッドゾーンだったバッテリーは五十パーセントまで回復していた。やはりPD対応バッテリーの充電は早いようだ。
俺は部屋に帰るなり大容量バッテリーについて検索をしてみたのだが、如何せんPD対応となると値段が跳ね上がるので通常容量のバッテリーを一つと、コンセントからUSBの四ポート変換器をポチっておいた。
そして不測の事態のためにコンセントのACアダプタとPCのUSBポートをフルに使って全てのモバイルバッテリーをフル充電しておくのだった。
――妹の部屋
「ひゃああああああああほううううううううういいいいい!!!! お兄ちゃんの香りがします!!!!!!」
くんかくんか!! すーはーすーはー!
私はお兄ちゃんと一緒に座っていたベッドの上で悶えていました。これはもうお兄ちゃんとベッドインしたと言っても過言ではないのでは!?
私は大変いい気分だったのですが、すこしエキサイティングしすぎたために夜ベッドの上で眠れず、床で寝る羽目になったのでした。
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