妹とエナドリの関係

「お兄ちゃんはカフェインが好きですよね?」


「もちろん、だから朝はコーヒーに限るんだよ」


「そんなお兄ちゃんに一つ提案があります」


 睡はもったいつけて言葉を継ぐ。


「エナドリでもカフェインは摂取できるんじゃないでしょうか?」


「そりゃあそうかもしれないけど……」


「と言うことでエナドリをいろいろ買ってきました! ちゃんと二本ずつ買ってきているので一緒に飲み比べましょう!」


 そんなわけで俺と睡でエナドリを飲み比べてみることになった。


「じゃーん! まずはこれ! 王道中の王道! レッドブルです!」


 そう言って青くてやや小さい缶を二人の前に一本ずつ置いた。


 プシュ


 何の迷いも無く睡は缶を開ける。俺もよく分からないが缶を開けることにした。


「かんぱーい!」


 二本の缶で乾杯をして二人で飲み始めることになった。


「エナドリはちょくちょく飲みますけどこれはやっぱり普通ですね」


「そうだな、ジュースほど飲みやすくはないがまあエナドリっていったらこれだな」


 クイと飲むともう缶が空になってしまった。量は少ないな。


「量は……少ない気もするが」


「そうですね、もっと大きめでも良いような気もします」


「ただなあ……カフェインとかを求めている人にはこの量が丁度いいんじゃないか? あんまり量が増えても……その……あんまり飲みやすい味じゃないしな」


「そうですか? 私は好きですけど?」


「量が少ないから飲みやすいと言えば飲みやすいな。味はともかく……まあエナドリの味なんてこんなものだとは思うんだが」


「これがエナドリ業界の基準みたいな感じですね、始めに標準を飲んで欲しくて買ってきたんですよ。シュガーフリーとかもありましたけど、眠気覚ましなら糖分は必須ですし」


 そうして意見を交わした末、エナドリのベンチマーク基準であるレッドブルの評価は終わった。


「さて次は……モンエナオレンジです」


「緑じゃないのか?」


「あっちだとレッドブルと変わらない評価になりそうですしね。差別化ってやつです」


 プシュ


 缶を開けて一口飲んでみる、なるほど缶の色通りのオレンジ味だった。


「これはエナドリなのか? なんか変わったオレンジジュースって言われても分からないぞ?」


「果汁が多いですからね。確かにジュースって感じですね。味は良いでしょう?」


「そうだな、緑よりは間違いなく飲みやすい。これなら何本か飲んでも平気そうな味だな」


 エナドリは正直美味しくないという偏見を壊したのがこれだ。ジュース代わりにがぶがぶいけそうな味をしている。実際ジュース感覚で飲んだから非常に体に悪そうではあるが飲みやすいエナドリとしての差別化は図れているだろう。


「私はもうちょいエナジー感があってもいい気がしますがね」


 そして俺たちの評価は『エナドリ初心者向け』と言うことになった。俺たちで間違いなく意見の一致を得たのは値段の割に量が多いと言うことだった。


「では次行きましょうか! パッパパーン『リアルゴールド』」


 そう言って睡が取りだしたのは栄養ドリンクでおなじみのリアルゴールドのエナドリ版だった。


「リアルゴールドか……リポDとかは何度か飲んだことがあるがどんな味なんだろうな?」


「実は私も知らないんですよね、100円ちょいという驚きの値段だったのでつい買っちゃっただけなので」


「エナドリにしては安いな」


「でしょう? 二百円が標準感がありますからね、エナドリとしては安かったんで予定になかったんですけどつい買っちゃいました」


「なるほど、これで効くならコスパはいいんだな」


「まあ飲んでみましょうか」


 プシュ


 缶を開けて喉へと流し込もうとしたところ口の中でストップがかかり大した量でもないのに一口では飲めなかった。


「なんつーか……健康に良さそうというか……」


「薬臭いですね。缶に入ってる生薬がたくさん書かれているのでしょうがないのですが……私漢方系の薬臭さって苦手なんですよね……」


「あまり得意な人はいないと思うぞ」


 愚痴っててもしょうがないので一気に飲み干して一緒に買ってきたのであろう炭酸水で口を洗い流す。


「まあ……安さを求めるならアリってところかな……」


「値段極振り感はありますね、素直に他のエナドリをパクらなかったことは挑戦者としての評価に値しますが味がなんとも人を選びますね……」


「俺の口には合わないかな。漢方や生薬が嫌いじゃなければ安く手に入るエナドリで強いんだろうが……」


「私としては素直に先輩エナドリ達の真似をしちゃうべきだったと思いますよ」


 こうして現時点での評価は比較的低いエナドリがリアルゴールドに決定した。生薬が好きならトップクラスにコスパが良いものではあるが俺と睡の口には合わなかった。


「ではラストですね。パッパパーン『Zone』」


「これはでかいな」


 最後を飾るエナドリの特徴はなんと言ってもそのでかさだった。普通に五百ミリリットルの缶に入っている。


「値段はいくらだったんだ?」


 これだけの量なら多少は高いだろう。


「二百円ちょいですね、レッドブルやモンエナと変わんないくらいでした」


「量の割には安いんだな」


 清涼飲料水としては高い値段だが、エナドリとしては量の割には間違いなく安い部類だった。量が欲しいならZone安いのが欲しいならリアルゴールドといった感じだろうか。


「では最後の一本に乾杯」


「乾杯!」


 プシュ


 缶を開けると普通のエナドリの匂いがしてくる。幸いにもこちらはエナドリ臭くはあっても生薬のあの独特の匂いはしなかった。安心して一口飲む。


「ザ・普通って感じだな」


 それが俺の感想だった。マズくも美味くもない、何もかもが標準的なエナドリといった感じだった。


 そうしてラスト一本を飲み始めたのだがいくらか飲んでから、量が多いから良いというわけではないことを思い知った。


「エナドリを五百ミリリットルって結構キツいな……」


 モンエナオレンジのように果汁が入っていれば問題無かったかもしれない。しかしコイツは標準的なエナドリの味をしていた。


「レッドブルは量が少ないと思いましたけど一応あの量にも理由があるんですね……」


 もうすでに三本のエナドリを開けて飲み干しているのに追い打ちでたっぷり缶一本を飲み干すのは少々キツかった。


「まあ味は値段なりってところだな」


「ですね、この量だとレッドブルの少なさが合理的だったのが分かりますよ」


 なんとかのみ干しての感想を述べる。


「多い! とにかく多い! これ一本だけを飲むならコスパはいいけど何本も飲めるものじゃないな」


「一本で済ませたい人向けって感じですね……コスパはいいですけどガブガブとはいけませんね……」


 量に関しては単品で見るなら問題無し、複数本飲むには厳しいと言うのが俺たちの評価だった。


「うっぷ……さすがに飲み過ぎたな……」


「ですね、私もちょっと後悔してます」


 そうして飲み終わっての俺たちの感想は……


「レッドブルの量が少ないことには理由があるんだな……」


「一本なら大して分かりませんけど社会人のデスマーチとかなら一本が少ない方が飲みやすいですね」


「俺はモンエナオレンジなら何本かいけるかなって感じたけど……Zoneは一本で限界だな。二本目飲むまでに時間を空けないとキツいよ」


「リアルゴールドは……安いのが全てですね。値段だけなら素晴らしいんですけど……」


「俺の感想としてはモンエナオレンジが一番好みだったかな。カフェインが追加で欲しいならコーヒーを別で飲むよ」


「私はレッドブルですね、お手軽に飲みきれるのは大きいです」


 こうして俺たちのエナドリレビューは終わったのだった。なおその夜、カフェインの取り過ぎで眠れなくなって大層苦労したのは言うまでもないだろう。


 ――妹の部屋


「うぇっぷ……げっぷ……」


 私はおよそ女の子らしからぬ音を喉から出していました。さすがにエナドリ四本はやり過ぎました……あの量は一日で飲む量じゃないですね……


 私はその夜、なかなか寝付けませんでしたし、隣の部屋から明かりが漏れていたことから、お兄ちゃんも眠れなくなっていたようでした。


 私は企画を考えて身として少しお兄ちゃんに申し訳なく思うのでした。

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