ゴールデンウィークが終わるまでにしたいいくつかのこと

「お兄ちゃん! デートをしましょう!」


「なんだよ藪から棒に……」


「考えてみてください! せっかくの長期休暇に……その……恋人みたいなことをしたいじゃないですか!」


 なにを言い出すんだコイツは……


「俺が相手になってもしょうがないだろ? まともな相手を探したらどうだ? 少なくとも俺よりまともな人間なんて掃いて捨てるほどいるぞ?」


「それでも! それでも私はお兄ちゃんとイチャイチャしたいんです! ええ! それはもう心から!」


 こうして温かなご飯と味噌汁の朝食を食べているはずなのに、雰囲気は宇宙ステーションで固形食料を食べているように空気が固まってしまった。


「で、どこかに行きたいのか?」


 妹は舌なめずりをして我が意を得たりと頷く。


「ご明察! せっかくなので商店街を一緒に歩きましょう!」


「商店街!?」


 俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。だってコイツならもっと華々しい場所を選部に違いないと思っていたから……


「ゴールデンウィークって事で商店街でいろいろやってるみたいですよ? コレは行くべきでしょう!」


「良いけどさ……そんな近所で良いのか? もっとこう……雰囲気の良いところを言い出すかと思ったんだが?」


 ふっふっふ……


 妹が不敵な笑いを浮かべる。


「商店街! つまりご近所さんがたくさん! 同級生だっているかもしれません! つまりお兄ちゃんとイチャついているところを多くの……それも近所の……人に見せつけられるわけですよ!」


 やっぱロクなこと考えてねえなコイツ……


 とはいえ、俺のお財布事情からしても商店街で済むのならそれなりになんとかなるだろう。高級な所となると俺だけの資金ではどうにもならない。


「分かったよ、商店街だな」


「そうですとも!」


 こうして俺たちは近所の商店街へと歩いていった。途中で妹が手を繋ごうと言ったので手を差し出すとナチュラルに恋人つなぎを選ぶコイツの考えが理解出来なかった。というか恥ずかしいんだが……


「お兄ちゃん!! 綿あめがありますよ! コレは買っておくべきでしょう!」


「はいはい」


 綿あめを売っているオヤジに三百円を渡す。


「彼女さんかい? 羨ましいねえ」


「ええまあ、そんなところです」


 しれっと大嘘をつく妹にもはや突っ込む気にもならなかった。


 ベンチに座って綿あめを食べ終わると設置してあったゴミ箱に割り箸を放り込んで俺に向かう。


「お兄ちゃん! ありがとうございます!」


 チラッ


「?」


 チラッ


「なんだよ?」


「私を見て気がつくことがありませんか?」


「ああ……綿あめがほっぺについてるぞ?」


「そこまで気がついてなんで舐めて採るっていうイベントを起こそうと思わないんですか! 責めて指で取ってからそれを舐めるくらいのことはしてくれてもいいはずです!」


「えぇ……」


 さすがに兄妹でそれはないだろう……無いよな? コイツと一緒にいると自分の常識の方がおかしいんじゃ無いかと思えてくるのが恐ろしいところだ。


「まあ良いです……ここは許してあげるのでソフトクリーム買いましょう!」


「分かったよ……」


「おばちゃん、ソフトクリーム二つ」


「バニラ二つで良いのかい?」


「それでいい」


「チョコとイチゴをください」


 俺が注文しているのに横から割り込んで味を指定してきた。ちなみに金を払うのは俺である。


「はい、ソフトクリーム二つね」


 おばちゃんが両手にソフトクリームを持って俺たちに差し出してくる。俺はそれを受け取りさっきのベンチに座った。


 さすがにコレで無茶振りは無いだろうと安心していた。


 一口舐めてみる、甘さが口に広がってチョコのほろ苦さと良い感じだ。コイツはそれを知っていて注文を変えたのだろうか?


 睡も一口舐めてから突然俺のソフトクリームにパクついてきた。突然だったので俺も反応が出来なかった。


 美味しそうにチョコ味を味わってからイチゴ味を俺の方に差し出してくる。俺にもやれということらしい。


 少し考えて、ここで照れると言うことは睡を意識していると取られるんじゃないかと考え無表情を装ってイチゴソフトを一口食べた。甘酸っぱさが口の中に広がる。


「美味しいですか?」


「そうだな……美味しかったよ」


 しかしそれに不満なのか睡は俺に文句を言ってきた。


「そこはもう少し恥じらいを求めるところなのですが……」


「兄妹で料理を分け合うなんて良くあることだろ?」


 睡は「ぐぬぬ……」と歯ぎしりをしながら俺の言葉を肯定した。


「そうですね! 『仲の良い』兄妹なら間接くらい全く気にしないでしょうね!」


 そこから怒濤の勢いで食べ歩いた。ジュースから串焼きみたいなものまで、力を入れている商店街にはいろいろなものがあった。それらを一々シェアしたりしながら制覇していった。


 そうして帰宅後、睡は宣言した。


「これでかなり商店街には私たちの関係が知れ渡りましたね!」


「そうだな、仲の良い兄妹がいるって話題になってるかもな」


「お兄ちゃん、仲の良い兄妹でも恋人つなぎでそこらを歩いたりはしないものなのですよ?」


 そういえばほとんど手を繋いで歩き回っていたな、コイツの握力はかなりのものだった。握力計で測れるのだろうかと思うくらいには力強く俺の手を握っていた。


「ちなみに商店街には三人クラスメイトがいたことを確認しています。私たちをジロジロ見てましたよ?」


「言えよ! 気づいてたんならさあ!」


「これで連休明けには私たちがただならぬ関係と知れ渡ってしまうのですね!」


 俺もクラスメイトの顔と名前を覚えきっていないのにコイツはしっかり覚えてアピールしていたのか……頭の良さをここまで無駄遣い出来るやつも珍しいな。


「ではお兄ちゃん! 私はお風呂に入ってきますので、湯船に浸かりながら今日の写真をSNSにアップして楽しみますね!」


「おま……隠し撮りしてたのかよ……と言う買うでは何本あればそんなことが出来るんだ!?」


「私にかかれば余裕ですよ! そーいうことなのでクラスのグループチャットに流すので知れ渡っていると思ってくださいね!」


「もう諦めたよ……」


 俺は考えるのやめ自分の部屋に戻った。


 ――妹の部屋


「ククク……今日の写真の反応はどうですかねえ……」


 きっと私とお兄ちゃんがラブラブなのを驚きを持って迎えられるのでしょうね……まさか! みたいな反応が大量についているでしょう! なにせクラスでも有名な美少女が兄とデートをしたのですから!


 さあレッツチェック!


『知ってた』


『いつもの』


『だと思った』


『安心の兄妹』


「なんで皆ドライなんですか!」


 クラスでも有名人がデートですよ! 話題になるはずでしょう!?


 こうして私の野望は思っても見ない反応に消えてしまったのでした。

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