第3話

「――ここが、あなた様にとって楽しいと思える場所です」

歩くこと十分ほど。

レンリーが足を止めて、向こう側の大きな建物を指さした。

「ええと......俺にとって楽しい場所?というか、そこって何があるの?」

「色々ありますよ。例えばゲーム類とか、酒場、あと魔法を取り扱っている店など」

レンリーが言っていることは、現実世界で例えるならデパ地下とか、大きなショッピングモールとかそんな感じ。

「とにかく腹減ったんだけど......」

この世界に来てからというもの、俺はこの世界の食べ物を食べていない。

というより、単純に現実世界でご飯を食べずにこの世界に入って来てしまったので、ものすごく腹が減っている。

「ああ、でしたら――あの店がいいですよ」

レンリーが指を指したのは、その現実世界でいう所のショッピングモールの隣にある、食事処的なやつ。

「それじゃ行ってみるかー......あれ、レンリーは?」

俺はそのままその店に行こうと歩き出したのだが、なぜかレンリーはついてこない。

「わたしは......ええと、今あんまりお腹空いてないです。なのでお一人で行ってみては?ああ、あと――これも」

「え?なにこれ?」

レンリーは、カラフル色の袋を俺に渡してきた。

「これは、この世界の通貨が入ってます。とりあえず、ここ一週間ほどはこのお金で乗り切れるようにしていますので。あの、あんまり無駄遣いはしないでくださいね?いくら女神と言えども、わたしにはこれくらいの資産しか与えられないので。また一週間後に会いましょう」

「えっ、ちょっと、まっ――」

俺はそこまで言いかけた時、レンリーは一瞬にして俺の視界から消えていった。


「......これでどうしろと?」

レンリーが去ってから数分。

未だ俺の手には、レンリーが渡してきたこの世界の通貨が入っている袋が残されている。

「とりあえずご飯だな......」

このお金の最初の使い道はご飯の代金にすることにした。


「いらっしゃいませ~」

その食事処の店に入ると、いかにも異世界というように、色々な人がいた。

例えば、背中ら辺から羽が生えてる人(実際に人なのかは分からないが)、尻尾が生えている人などその他諸々......。

「あれぇ~?君は見ない顔だねぇ。もしかして、この世界以外から来た人だったり?」

おっと、初っ端からバレそうになっているし。

いやでも、バレたところで何にもないだろう。

「え、あ、そうですけど」

俺はそのまま返した。

そして、その店員なのか分からないが、その人は少し考えるそぶりをすると、

「じゃあ、君はこっち来て~」

と、なぜか俺はその人に誘導されることになった。

「はい、ここにどうぞ~」

通されたのは、個室とはいかないが、少し広めの部屋。

「君はどうしてここに来たの~?」

「それは、この世界になぜ来たかについて?それとも、この店に来たことについて?」

「どっちもだけどぉ、後者の方かな」

「ああ......俺、単純に腹減ってるんだ」

「はいはい~、じゃあこのメニュー表見て決めて~」

......。

メニュー表に目を通してみたが、ここの世界の文字は分からない。

というか今気づいたが、なぜ俺はここにいる人たちと普通に喋れているのだろうか。

このメニュー表に書かれている文字は意味不明なのに、どうして普通に喋れているのか。

ちょっと変だなと思った。

これも、もしかしたらレンリーが何かしらの事をしたのかもしれない。

「あれ、もしかしてこの文字読めない?」

「あ、うん。マジで読めない」

「そっかぁ~、じゃあこの店おススメの物でもいい~?」

「あ、うん、食べれるなら何でもいいよ」

「はいはーい、ちょと待っててね~」

そしてのその人はこの部屋から出て行く。

うーん......今の人、けっこうかわいかったなぁ。

ヤバい、俺惚れたかも。

喋り方と言い、あの体系といい......やっぱ異世界っていいな。

これなら王にならなくてもいいんじゃないか?と思ったとき。

「......ん?」

なにかレンリーの声が聞こえたような気がした。





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