騎士の引き立て役⑤




新人であるナイトの部屋の階層は低い。 それでも窓からの訪問は普通ではない。


「ランス!?」


慌てて窓を開けると周りに見つからないよう小声で話す。


「ランス! 何をやってんだよ!? 部屋で待機って言われているだろ!」

「今すぐにナイトの家へ向かうぞ!」

「え、俺の家? どうして?」

「ナイトの母さんのことが心配だからだ!」


自分の家族でもないのに心配してくれたことが嬉しかった。 だが新人である自分たちに下された命令は自室での待機だ。


「・・・国民は安全のために避難するようアナウンスで流れていたから大丈夫じゃ」

「ナイトの母さんが素直に避難すると思うか?」

「・・・」


母は父を大切に想っていて、父から受け継いだ思い出の詰まった家も大事なのだ。 強盗が家を破壊するとは思えないが、侵入されれば中は滅茶苦茶にされてしまう可能性は高い。 

流石に身に危険が迫れば家よりも優先してくれるとは思うが、切羽詰まらない限り家に残り続ける可能性はあった。 そして切羽詰まった状態になった時、母が無事でいられる保証は全くないのだ。


「・・・でも」


騎士になったならば騎士団長の命令は絶対だ。 受かったばかりで逆らって合格を取り消しにされたくはない。 母のことは心配だが、現在は先輩騎士たちが対応してくれているはずなのだ。 

自分たちが動くということは、これからの仲間たちを信頼していないことになるのではないかと思った。


「ナイトの家は他と違って豪邸だから目立つ。 強盗が金目的ならすぐに狙われるぞ!」

「そう、だけど・・・」

「ったく! 真面目な性格も昔から変わらないんだから! いいから早く来いッ!!」


そう言ってランスはナイトの腕をグイと引っ張った。 それに強く抵抗しなかったことからも、自身行きたいと思っていたということなのだろう。 

先導してくれたランスのおかげでナイトもようやく母のもとへ向かう決意をする。


―――・・・今更後悔をしても、仕方がないか。


騎士団長の命令を無視し二人はこっそり城から抜け出した。 後ろめたい気持ちはあるが無視だ。 大回りしながら人に見つからないようにナイトの家へと駆けていく。


「俺は玄関の前で待機をしておく! 変な奴らが入ってこないようにドアを塞いでいるから、ナイトは母さんの安全を確認してこい!」

「わ、分かった!」


ランスにそう指示された。 命令違反は明らかなため緊張感が凄い。 走っていると家へと着いた。


「じゃあ俺はここにいるから」

「ランスの家族は?」


ランスは少し考える素振りを見せ言った。


「俺も一応見てくる。 今は周りに強盗はいなかったから大丈夫だと思うけど、すぐに戻るよ」

「分かった」


一度ランスと別れ、ナイトは自分の家へと入り母を探す。


「母さーん?」


緊張で声が震えてしまっていた。 強盗が怖いというわけではなく、母親が無事かどうかということの恐怖。 

ただ侵入された形跡は全くないし、分かりやすく声を出して呼んだため母も弱々しいながら反応してくれた。


「な、ナイト・・・?」


母の声も小さく震えていた。 声のもとへ走っていく。


「ッ、母さん!」


母は無事で家の隅で怯えるように縮こまっていた。 どう見ても強盗から守ろうという雰囲気ではなく、どうすればいいのか分からなかったという雰囲気だ。 

家にいてもどうしようもないというのに、やはり家を放り出しては逃げられなかったのだ。


「ナイト・・・ッ! 本物なの・・・?」

「当たり前だろ!」

「戻ってきてくれたの・・・?」


母は縋るように手を伸ばしてきた。 その手を握り締めることはできても、期待に応えることはできない。


「試験には合格した。 だけど今は母さんのことが心配でここへ来たんだ。 だから早く母さんも避難してくれ!」


そう言って母の腕を引っ張った。 だが首を振るばかりで動こうとしない。


「母さん!」

「嫌よ! お父さんが残してくれた家を、失いたくない!!」


その気持ちは痛い程分かるが、今はそのようなことを言っている場合ではないのだ。 思い出も命あってこそのもの。 

騎士になったのは国を守るためではあるが、母を守るためにその力を使っては駄目なわけではない。


―――・・・だけど、ここにいるのは危険だから。


強盗が一人や二人なら何とかできる。 だが大人数で押し寄せられれば、いくら騎士になったナイトと言えどどうすることもできない。

どうにかして母を説得する言葉を考えていると、玄関からランスの声が聞こえた。


「ナイト! 早くしろ! 俺一人では止められない!!」


外の騒がしさからしてランスの予想が的中し、強盗がこの家に向かってきている。 もしランスとナイトでどうにかなりそうならランスがそう言うはずだ。 再び母の腕を引っ張った。


「母さん、頼むから! もう強盗が迫ってきているんだ!!」

「嫌!!」


頑なに拒む母にナイトは母の腕を掴んだ手に力を込めた。


「・・・ッ、俺は母さんを失いたくない! 確かに父さんのことも大好きでこの家も手放したくないけど、俺は今生きている母さんを大切にしたいんだ!!」

「ッ・・・」

「母さん!!」


話していると窓ガラスが割れる音がした。


「ナイト! 強盗がそっちへ回った!!」

「ッ!」


ランスの声と同時に窓の方へ視線をやった。 母を守りながら剣を抜き戦闘態勢を取る。 すると窓から強盗が侵入してきた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る