騎士の引き立て役④
試験会場であった広間に改めて集められた。 もう受験者や保護者はおらず、合格者と先輩の騎士だけになっている。
既に整然としていてナイトは一番後ろに並んでいるが、不思議そうな視線を向けられ何となく気まずかった。
―――・・・居心地が悪い。
とはいえ、補欠合格したことは改めて紹介してくれるのだろう。 騎士団長の言葉は予想通りで、少しばかりホッとした。
「ナイトは特別枠として合格した者だ。 みんな、仲よくしてやってくれ」
これから仲間になる男たちは小さく頭を下げると騎士団長に向き直った。
「この後は私が城内を案内する。 間取りは極秘のためマップは用意できないが、頭に叩き込んでくれ」
城の一般人の立ち入りには区画が決められている。 ナイトも試験以外で来たことはあるが、城の構造がどうなっているのか全く知らない。 それだけでも騎士としての特別感を感じた。
「部屋割りは新人の三人と二人で分けること。 ナイトは特別枠だから別の塔になる。 また後で個人的に案内しよう」
「分かりました」
「よし。 では、付いてきてくれ」
城内を見て回った。 一度しか案内されないため必死で頭に叩き入れる。 その時ランスがナイトの服を軽く引っ張った。
「なぁ、武器庫ってどこだっけ?」
「三階の角部屋じゃなかった?」
ランスに尋ねられ小声で答えた。 すると騎士団長から怒声が聞こえてくる。 周りは静かにしていたため目立ったのだろう。
「おい! 私語は禁止だぞ!」
「ごめんなさい! 場所が分からなくなって、ランスに聞いていました」
ナイトがランスを庇うため咄嗟についた嘘を聞き、怪しむように騎士団長は二人の間で視線を動かす。
「・・・それで、解決したのか?」
「はい!」
ハッキリとそう言うと騎士団長は感心するようにランスを見る。 そして案内を再開した。
「・・・それ、昔から変わらないな」
「・・・」
小声でそうランスに言われた。 何も言葉を返せなかった。 無事城の見回りが終わる。
「じゃあ各々荷物を自分の部屋に置いてくるように。 この後は早速剣の稽古を――――」
騎士団長が話をしていると突然サイレンが鳴った。 城の者が珍しく慌てている様子だ。
「急に何だ?」
『国内に強盗が現れました! 至急騎士は――――』
―――強盗!?
合格者の新人たちも気が気ではなかった。 もしかしたら初ミッションになるのかもしれない。 そのような空気が緊張感を積み上げていく。 だがそれを否定するよう騎士団長の言葉が場を過った。
「新人は部屋で待機だ! ナイトも部屋へ案内するから付いてこい!」
「は、はい!」
急遽解散となった。 何も話すことなくランスと別れ、騎士団長にこれから世話になる部屋まで案内される。
「ここが今日からナイトの部屋だ」
開けられたその部屋には誰もいなかった。 個室のはずがないので、現在出ているのだろう。
「紹介すべきかと思ったが、警報を聞いて対応しているのだろうな。 帰ってきたら挨拶をするといい」
「分かりました。 あの、俺は何をすれば」
「事態が落ち着くまでここで待っていればいいさ。 私もそろそろ事態に対応しなければならん。 騎士たちへ指示を出してくる」
新人が今動くのは足手纏いのようだった。 騎士団長は忙しそうに去っていく、
―――強盗、か・・・。
―――ここでそわそわしながらずっと待っているのも、結構キツいけど。
騎士団長がすぐに動かなかったということは緊急度で言えばそれ程高くないと考えた。 窓から外を見てみる。 塔は城の敷地内にあるため城下は窺えない。
―――大丈夫かな、母さん。
待機している間に避難を促すアナウンスも聞こえていた。 頭に浮かぶのはやはり母の姿だ。 カーテンを閉め中に戻る。
―――一人で心細くなって、判断が鈍くなっていなければいいけど・・・。
ナイトは一歩も動けない今、ただ無事を願うことしかできなかった。 しばらくすると窓をノックする音が聞こえてくる。
―――風か?
待機するように言われているため下手に動くことはできない。 だが何度もノックされる音が聞こえ不思議に思ったナイトはカーテンを開けてみた。 するとそこにランスがいたのだ。
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